私も学校を出て、自転車に跨って夕方5時半にタイムセールをするスーパーに向かう。 この時間帯の店内はいつも混んでいて、今日は水曜日なので安売りする卵をみんな求めているのか、尚更混んでいた。
料理は得意じゃないけれど、出来合いの惣菜や湯銭で済むようなレトルト食品ばかりだとどうしても値段が高くついてしまうから、安い食材で済む献立をスマホで検索しながら、陳列された野菜と睨めっこして店内を一周する。
カゴの中に卵を入れた時、他校の制服を着た女の子が、母親らしき人とスイーツコーナーを眺めていた。 その光景を見て、やっぱり制服を着てひとりで買い物してるのは浮くかなぁと今日も思う。
鞄からエコバッグを出して、買い物カゴに引っ掛けてレジに並ぶ。 この時も、なんだか周りの視線が気になって落ち着かない。
スーパーを出ると、さっきよりも空はどんよりと曇っていて、空気の匂いも湿っぽい青臭いような気がした。 ただでさえ、スーパーからの帰り道は荷物が増えるから自転車のペダルが重たいのに、天気のせいで気持ちまで尚更重たい。 家に近づくにつれて、足に鉛が絡みついたように重くなる。
クラスメイトの中に、学校に来て早々に「はやく帰りてえ」なんて言う子がいるけれど、そう言えるのが羨ましい。
私は、できるだけ学校の屋上にずっと居たい。
「あっ、紗季ちゃんっ」
名前を呼ばれて、自転車のブレーキに手を掛ける。 顔を上げると、そこはちょうど近所の仲田さんの家の前だった。
「おかえり。 ごめんね、急に呼び止めちゃって」
近所の人から「おかえりなさい」と言われた時、なんて言って返事をするのが正解なのか、やっぱり今日もいまいち分からず、私は「こんばんは……」と言いながら頭を下げた。