駅に着いて自転車を停めて降りる。 駅構内に入って田辺の後ろについて行って切符販売機の前に立つと、田辺は「1980円の切符、買ってくれる?」と販売機の画面を指差しながら言う。
「わかった」
「一応、ふたり分買ってほしいんだ」
「うん。 ……ん?」
思わず聞き返すと、田辺は「なんか、流石に無賃は罪悪感あるからさ」と苦そうに笑う。
「律儀だね」
けれど、そういうところが“田辺らしいな”とも思って、私は田辺の言う通りに切符を2人分購入する。
「ありがとう。 俺、時刻表見てくるね」
「うん」
自動券売機の吐き出し口から切符を2枚取り出す。 私は自動販売機の上に設置された線路図を見上げて、この切符の行き先はどこなのか探してみる。
「ちょうど、10分後に着くって」
それっぽい行き先を見つける前に田辺が戻って来たので、私は視線を下げて田辺を見る。
「そっか。 もうホーム降りる?」
田辺が「そうだね」と頷いたので、私は改札口まで行って駅員に切符を1枚差し出す。 おじいちゃん駅員のしわしわの手は、慣れた動作で素早くカチッと切符を切った。
1枚で、やっぱりいいんだ。
改札を過ぎて案内板を見ると、3番線は反対側だった為階段を上って向かう。
階段を踏む足音は私ひとりの音しか聞こえないのに、隣を見ると私とは違うリズムで階段を登っている田辺がいて、やっぱり変な感覚だ。
ホームに降りると、誰もいなかった。 とりあえずベンチに座って電車を待つことにする。