「ほ、ほんとに入っていいの? 誰もいないんだよね?」

「うん」

私は恐る恐るドアノブを捻ってドアを引くと、キイと軋む音が鳴った。 

ドアの隙間から室内を見ると、中はカーテンが締め切られているせいか薄暗い。

「奥に俺の部屋があるから」

私は「お邪魔します……」と声を潜めて言いながら、玄関で靴を脱いで部屋に入る。 部屋の中は生ぬるい室温で、タバコや食べ物みたいな匂いがツンと鼻を刺す。

ゆっくり部屋の奥への足を進めると、何かが足に当たってカランと音が鳴った。

「ごめんっ、なんか蹴っちゃったかも」

「ああ、いいよ。 足元、気を付けてって早く言えば良かったね。 あ、そこが俺の部屋だから、入って」

私は蹴ってしまった何かを元に戻そうとしゃがみかけたけれど、暗くてよく見えず諦めて、田辺が言う“そこ”の襖を開けた。

すると、そこの部屋はカーテンが開けられていて眩しくて、思わず目を細める。 視線だけで部屋を見渡してみると、勉強机と畳まれた布団だけが置かれていて、何だか物が少ない部屋だなと思う。

「机の一番上の引き出しごと、出してくれる?」

「え、引き出しごと?」

「うん」

「分かった……」

言われるがままに勉強机の一番上の引き出しを全部出してそれを机の上に置くと、田辺はしゃがみこんで引き出しの中を覗き込みながら「新名、ここ」と中を指差す。

私も同じようにしゃがんで田辺が指差す所を覗くと、天板に何かが貼り付いているようだった。