「めっちゃ危ないことするね」

田辺は少し目を細めて、笑っているみたいに言う。

その田辺があまりに自然で、やっぱり田辺が死んでしまったのは夢で、今も私は夢を見ているのだと……そう思おうと思った。

それなのに、私の耳の奥で鳴り響く鼓動の音と様の声と急に噴き出してくる汗の感覚が生々しくて、これが夢ではないのだと裏付ける。

でも、これが夢でないのなら、やっぱり私の頭がおかしくなったとかじゃないかと思う。 死んだ人間が目の前にいるこんな非現実的な状況は、あまりにも都合が良すぎる。

「あれ? 俺のこと、見えてる?」

田辺はブランコに座ったまま小首を傾げる。 

「……見えてるよ」

「よかった。 新名、もともとこういうの見える人だったの?」

「いや……全然」

だからこそ、さっき屋上で見た光景は信じられなかった。 ホラー映画は時々観るけれど、実際はこういう類は全く信じてはいない。

「そうなんだ。 なら、俺のことは見えてよかった」

田辺は「じゃあ行こう」と言って、ブランコから立ち上がると公園の出入り口の方に向かう。 

私は聞きたいことばかりだけれど、とりあえず自転車から降りて、その背中を追いかける。

「ね、ねえ、どこに行くの」

「一旦、俺ん家」

「ええ?」

「すぐ近くなんだ」

田辺はそのまま公園から出て、左に曲がる。 そこにはいくつかアパートが建っていて、田辺は「あれ」と古びたアパートを指差した。

「新名、俺の部屋に入って金取ってきてほしいんだ」

「はあ!?」

思わず声が大きくなり、咄嗟に口を手で押さえる。 

「か、金?」

「自転車、階段の下に停めて俺と一緒に来て」

説明も一切ないのか……と思うけれど、そう言う田辺はどこか焦っているようにも見えたので、私は言われた通りにして田辺と一緒に階段を登る。

すると田辺は、階段を登ってすぐ目の前にあった扉の前で立ち止まってこちらを向いた。

「多分鍵空いてると思うから、開けてみて」

「え、私が?」

「俺、こうなってから何も触れなくなっちゃって」

ほら、と田辺はドアノブに手をかざすと、その手は何も掴むことなくスッとドアノブをすり抜けた。

「…………」

「ドン引きじゃん」

「そりゃそうでしょ……」

いつか観た映画でもこんなシーンあったな、と思いつつ、こんな光景を実際に目の当たりにしたら、驚きのあまり失神でもしちゃうんだろうと思っていた。

でも、失神しないってことは、私は少しずつこの状況を受け入れているということなのだろうか。