田辺の葬式が執り行われていたのは、家族葬専用と呼ばれる小さなセレモニーホールで、私たち田辺と同じクラスの生徒が集まると狭苦しかった。

列の先頭の方に視線を向けると田辺の遺影が見えた。

遺影に写る田辺は笑っていて、今よりもずっと幼いような気がした。 

ここに来てみれば、田辺が死んだことが現実を帯びるだろうかと考えていたけれど、遺影の写真のあどけない笑顔の田辺を見ても、まだ信じられない。

それなら、やっぱりお葬式に来るのは担任とクラスの代表数名で良かったのではとぼんやり考えていると「紗季」と後ろから小声で名前を呼ばれた。

振り向くと、結衣が目を真っ赤にして立っていた。 手には白いハンカチを持っている。 

「なんかさあ、全然現実味ないよ」 声を詰まらせ、鼻を啜りながら結衣は言う。 私はそれに対して「うん」とだけ返事をした。

結衣は、田辺に好意を抱いていた。 結衣から直接そういう言葉を聞いたわけではないけれど、授業中に結衣が田辺に視線を向けていたのを私は知っている。

「ねえ、あの人って田辺くんのお母さんかな」

結衣が指差す先を見ると、祭壇の横に喪服を着た細身の女の人が立っていた。 結衣や他の生徒のようには泣いておらず、特に何も表情は作らないまま足元に視線を落としている。

「……そうなんじゃない」

私は、遺影に写る田辺と細身の女の人を交互に見る。 

あまりよく見えないけれど、顔はやはり田辺と何処となく似ている。 しかし、雰囲気はまるで似つかず、茶髪に染められている伸びた髪は少し雑に後ろで一括りにされていて、喪服のせいもあってかなんだか生気がなく、今にも萎れてしまいそうだ。

でも、子どもを失った母親なら、生気など失ってしまうものなのかもしれない、とも思う。

「なんか……あんまり似てないね」

結衣も同じようなことを思ったのだろう。 私は「うん」と頷く。

「……ねえ、紗季知ってる?」

「何を?」

結衣は、私の隣にぴったりとくっついて声を潜める。

「田辺くん……自殺、っていう噂もあるみたいで……」

「…………え?」

思わず、身体が硬直する。 自分の身体の全身の血の気が、さぁっと引いていく感覚がした。

「田辺くんが自分から道路に飛び出したらしくてさ、それで、トラックに…………なんか、家庭環境も悪かったらし……」

結衣の声が、耳の奥で鳴る自分の心臓の鼓動にかき消されて、うまく聞こえない。

田辺が、自殺……? なんで、そうなるんだ。 誰だ、そんなことを言ったのは。

というか、そもそもお葬式でそんなこと話して、常識的に良くないんじゃないか。 遠くても、目の前に家族が立っているのに。

そう思った時、どこからか、また「自殺」と言葉が聞こえて、私は思わず振り返った。

自殺? 田辺が? そんなこと、ある訳ない。

田辺は私に、また明日と、言ったんだ。