翌日、学校に行くといつも私より早く教室にいるはずの田辺の姿がなかった。
私が早く来すぎたのだろうかと教室の壁掛け時計を確認したけど、時間はいつもと変わりなくて、教室にいるクラスメイトの顔ぶれもこの時間帯にいる子達だ。
田辺は、寝坊でもしているのだろうか。 珍しいな。
そう思いながら、私は自分の席についてスマホを操作してイヤホンから流れてくる音楽を変える。
そのイヤホン越しに、クラスメイトの一人が「田辺遅くね?」と話している声が聞こえる。
田辺と同じクラスになってから、田辺が学校を遅刻する姿は見たことがない。 スマホのメッセージアプリを起動して、指をスクロールしながら田辺の名前を探す。
けれど、もうすでに田辺には他の子からメッセージが送られているだろうと思って、私はアプリを閉じてスマホの画面を伏せた。
それから、クラスメイトの結衣や朱理が教室にやって来て、私は耳からイヤホンを外して他愛もない会話をする。
それでも、田辺は来ない。 クラスメイトの一人が「田辺、既読になんねーわ」と言っているのが聞こえた。
胸の辺りが、少しだけざわつく。 でも、そんなのは気のせいだろう。
そう思うのに、田辺が来ないまま朝の予鈴が鳴ってしまった。 教室の、ただ一つ空いている一番前の窓際の席が、教室から異様に浮いている。