食器洗いを終えて、お風呂も済ませて、祖母が居間から襖一枚で仕切られた寝室に入ったのを見届けてから、二階の自分の部屋に戻る。
日中閉め切られていた部屋は生ぬるい空気が漂っていて、お風呂上がりの火照った身体にはあまりに居心地が悪かった。
窓を開けると、どうやら雨は止んだようで、すうっと涼しい風と夜の匂いが入り込んできて、それが心地よくて、その空気を肺いっぱいに吸い込む。
この、夜の匂いが好きだ。 あと、空に近い屋上にいる時の匂いも好き。
どちらもその時にならないと感じられない空気だから、目いっぱい吸い込んで、その分自分の中に溜まった黒いものを吐き出す。
このままずっと、自分の身体の中が綺麗な空気でいっぱいになって、嫌な感情なんて一生芽生えなきゃいいのにと思うけれど、なかなかそうはならない。
窓に背を向けて、田辺から借りた漫画をカバンから取り出してベッドに上がる。
どんどん読み進めて、左側のページ数が少なくなっていくと名残惜しい気持ちになるのに、それでも先が気になってページを捲る指は止まらず、私はあっという間に2冊を読了した。
展開にハラハラして、心臓が少しだけ高鳴っている気がする。
田辺が貸してくれるものにハズレは一切ない。 どうして今まで知らなかったのだろうと悔しくなる程だ。
それに、今読んでいるこれはなんだかアルビオンに雰囲気が似ていて読み進めるのが怖いくらいに面白いし、どうして話題にならないのだろうと不思議に思う。
けれど、話題になっていないからこそ、自分たちだけがこの漫画の良さを知っているような気分になって、その優越感みたいなものに浸っているのが何気に幸せだったりする。
しかも、明後日には新刊が発売すると田辺が言っていたのを思い出して、思わず口の端が上がる。
やっと田辺に追いつけた。 これで、思う存分この漫画について田辺と話すことができる。
私はたった今読み切った7巻と8巻のそれぞれのお気に入りのシーンを読み返そうかと思ったけれど、時計を見ると時間は0時になろうとしていた。
一度ページを開くと結局止まらなくなるので今日のところは我慢して、明日田辺に返す前に読み返すことにして、私は高揚感に包まれたまま部屋の電気を消した。