「聖女だって神様じゃない。感情のある人間だ。もちろん母娘の情だってある」



「そんなの当然じゃないですか! エリザベート様にとって、マリア様もカタリナ様も自分のお腹を痛めて産んだ娘ですもの」



 エマは力説するが、メアリはどこか冷めたきった表情をしている。



「自分が産んだ子どもだったら、誰でもかわいいと思う?」



「そりゃそうですよ!」



 エマはきっと、家族仲の良い普通の家庭で、何の疑いもなく育ったのだろう。



「父親の違う子でも?」



「どういうことですか?」



「好きになった相手の子と、そうじゃない相手の子を、同じように愛せるかってことだよ」









 私はまたしても衝撃を受けた。それも、さっき受けた衝撃とは比にならないくらいの衝撃だ。



 聖女にも夫がいる。だが、世間一般の夫婦像とはかなりかけ離れている。



 聖女の夫の重要な役割は、ただ一つ、次の聖女を作ることだ。



 無事に娘が生まれれば解放されるかと言えば、そういうわけではなく、死ぬまでずっと聖女の夫でい続けなければならない。



 しかし、それが不幸かと言えば、決してそういうわけでもない。聖女の夫に選ばれるというのは、大変名誉なことだからだ。



 聖女の夫は、生涯窮屈な生活を強いられることになるが、それ相応の特権が本人とその実家に与えられる。



 そのため、その特権を濫用しないような、確かな身許の潔癖かつ優秀な人物が聖女の夫として選ばれる。