私はある決意をもって、この場所を訪れていた。



 私は鉄格子越しに見える白髪の女性の姿を見つめている。



 その女性というのは、私の母だ。



 国民議会の決定で、母は聖女の座から引きずり降ろされ、国民は私を次の聖女に選んだ。



 今、母は鉄格子の中にいる。



 母夫婦と夫の一族、そしてカタリナは、権力を濫用し、国民を苦しめたとされた。



 母の夫とその一族は、国外へ追放されたが、母とカタリナは囚われた。



 なぜなら、母もカタリナも聖女の血を継ぐ者だからである。私は追放でも構わないのではないかと思ったが、トーマスが反対したのだ。



 よからぬ考えを抱く者が、母やカタリナに近づくことを危惧したからである。



 私は異議を唱えることをしなかった。



 思えば母は弱い人間だったのだろう。偉大なる聖女であった祖母の期待に応えられず、聖女として必要最低限のことしか求められなかった。



 そのため、祖母の期待は、全て孫である私に向けられた。私が生まれてからというものの、祖母は私を自分の手元に置き、英才教育を施した。



 運悪くと言うべきか、私には祖母の期待に応えられるだけの資質があった。



 自分からやりたいと言ったわけでもなく、適性もない、聖女という立場を無理やり押し付けられた上、好きでもない男の子を産まされ、さらにその子が母親からの愛情を奪っていた。自分は単なる中継ぎとしての存在でしかない――それが母を歪めていった。



「カタリナ!」



 私の姿を認めると、母は私の前に飛び出してきた。



「……」



 私は無言で母を見つめる。カタリナは母とは別の場所に囚われており、二人はもう二度と会うことはない。



 囚われてからというものの、母は一気に老け込み、老婆のような見た目となった。そして、それと同時に心も壊れていった。



 私だろうが使用人だろうが、年頃の若い女性の姿を見ると、誰かれ構わず〈カタリナ〉と呼びかける。



 最初の内は私も、自分はカタリナではなく、マリアだと訂正をした。しかし、何度言っても直らなかった。



 私は毎日欠かさず母の元を訪れている。今日も母は私の姿を見つけると、



「カタリナ!」



 と呼びかけた。



 そこで私の心は決まった。



「もうここへは来ません。母のことをよろしくお願いします」



 私は看守にそう伝えた。



 母の娘はカタリナだけだったのだ。