反対方向からたった一人で歩いてきた私を見て、人々は不思議そうな表情を浮かべていた。



 それはそうだろう。明らかに異質な出で立ちの女が、たった一人でやってきたのだ。



 しばしの間、お互い、無言のまま向き合っていたが、先頭に立っていた一人の良い身なりをした男が、私の前にやってきて、



「もしかして、あなたは……マリア様ですか?」



 と尋ねてきた。



「はい……」



 私は小さく頷いた。この男には見覚えがあった。確か、法律家で国民議会の議員だ。名前はトーマスと言ったか……、どうやらトーマスがこの一団のリーダーらしい。



「マリア様だって? 聖女の娘が何の用だ!」



 どこからか怒声が飛んできた。



 人々の、私に向けられている視線が、一気に悪意を帯びたものになった。



 私は身の危険を感じ、無意識のうちに身構えていた。









「その人に手を出しちゃ駄目! その人が薬をくれたんだから」



 聞き覚えのある声がして、声がした方を見ると、人垣をかきわけてやってくる女性の姿があった。



「ロザリー!」



 私が、思わずロザリーの元へ走り寄ろうとすると、



「マリア様!」



 と今度は逆方向から複数名の声が挙がった。声の主は、以前宮殿にいた使用人たちであった。









「話だけでも聞いてあげようじゃないか」



 ロザリーは、トーマスに、私とのことを説明した。



 私と一緒に農園で働いていたこと、そして、私が配った薬のおかげで、何人もの命が救われたこと……。



「なるほど。あなたは我々の敵ではなさそうだ」



 トーマスは余程人望があるらしい。トーマスが私を敵ではないと認めた瞬間、人々の私を見る目が変わった。









「ひょっとして……マリア様が聖女になられるのですか? マリア様が聖女になられるのなら、私たちはまたお側で働きたいと思っています!」



 今度は元使用人たちが発言した。それは、思ってもみない言葉だった。



「私は……」