「あっ……。それにしても、どうして今頃……?」



 若い使用人――名前をエマと言ったか、エマもメアリが言わんとしていることを理解したらしい。



「先代の聖女様がお亡くなりになられたからだよ」



 先代の聖女――私の祖母は、つい最近亡くなった。聖女の座を母に譲り渡していても、実質的な権力は祖母が握っていた。



 そのため、祖母が生きている間は、母も好き勝手なことはできなかった。



 祖母が亡くなって、母が真っ先にやりたかったこと、それが、カタリナを自分の元に呼び寄せることだったのだ。









「カタリナ様が本当にエリザベート様の実娘だったなんて……聖女は、一人しか娘を産んではいけないはずですよね?」



「……そう。おかしなことにならなきゃいいけど」



 メアリは、少し間を置いてから答えた。



「本当に! 今朝なんて、あのお二人と廊下ですれ違ったら、とっても仲良さそうに買い物に行く約束なんてしていたんですよ!」



 エマは、国民の手本となるべき聖女が、堂々と違反を犯していることに怒りを感じているようだった。



 そして、私は衝撃を受けていた。私は、母と仲良く会話をしたことも、一緒に買い物に行ったこともない。



 母にとってカタリナは、私よりも特別な娘、ということなのだろうか?









「でも、これもマリア様が聖女になるまでの辛抱だわ。マリア様だったら理想的な聖女になられるでしょうから!」



「そうだといいけどねえ……」



 一体、メアリは何を知っているのだろうか、私はその場から動けなくなっていた。