「こんにちは。久しぶりね」



「えっ……? ああっ、あんたは!」



 聖女の宮殿に向かう途中、私は、農場で働いていた時に訪れていた町に立ち寄った。そして、そこで探していた人物を見つけ出し、声をかけた。



「お元気そうで良かったわ、ロザリー」



「どうしたの? そんな恰好をして。最初、誰だかわからなかった!」



 ロザリーは私の服装をまじまじと見つけた。



「その格好、何だか聖女様みたい……って、え? あれ? その紋章……まさか本当に……」



「ええ……、正確に言うと、ちょっと違うのだけれども……」



 何だか照れくささを感じ、私は小さな声で返事をした。



 ロザリーは驚きで口をあんぐりと開けていたいが、すぐに真顔に戻った。



「……で、聖女様が一体、何の用?」



 ロザリーの声色は冷たかった。それもそのはず、ロザリーは聖女に良い感情を抱いていない。だからこそロザリーに確かめたかったのだ。



「流行り病はどう……?」



「どうもこうもないよ! 農場の仲間ももう何人も……今も苦しんでいる仲間もいる……」



 涙で声を詰まらせながら、ロザリーは言った。



「薬は? 薬を飲んでいないの?」



「薬? そんなもの高くて買えやしない!」



 私は、国民全員に行き渡る量の薬を作り、それを全部フィリップに持って行ってもらった。



 馬車の中で控えているフィリップに確認してみたが、全て母に渡したとのことだった。



 私はてっきり、国民全員に無償で渡しているものとばかり思っていたし、そうしてくれることを願っていた。



 しかし、母には私の思いは通じなかったようだ。むしろ、母は完全に聖女としての有り様を失くしている。



「これを飲ませてあげて」



「薬?」



「そう。流行り病の薬よ」



 最悪の事態に備え、予備の薬を持ってきて良かった。



 だが、その最悪の事態に直面してしまった私は、母に対して完全に失望したのであった。