この国の王位継承者は、例外なく、身許を隠して下級役人として働くのが決まりだそうだ。



 自分の力で稼ぎ、国民がどのような生活を日々送っているのかを、身をもって知るのが目的とのことだ。



 国王陛下から説明を受けたものの、まだ信じられない気持ちだ。だが、私が、フィリップに対して感じていた庶民らしからぬ雰囲気は、当たっていたということだ。



「あ、このことは誰にも言わないでくださいね。呼び方も今まで通り〈フィリップさん〉でお願いします」



「はい……」



 フィリップの本当の正体を知ってしまった今、今後も以前と同じように振舞えるのか、私には少々自信がなかった。









「貴女をここへお呼びしたのは、息子の命を救ってくれたことへの礼と――」



 国王陛下は言葉を一旦切った。



「直々にお願いしたいことがある」



 国王陛下の口調から、深刻で重大な内容だと察することができた。



「私でお役に立つことがございましたら、なんなりとお申しつけください」



「フィリップの命を救ったあの薬を、国中の流行り病に苦しむ人々の元へ届けて欲しい」