「〈森の魔女〉は私のことです……」



 自分で自分のことを〈森の魔女〉と言うのは、正直言って恥ずかしい。



 それにしても見慣れない顔だ。この村の住人ではない。



 私は本人に気づかれないように、この男性のことを観察した。



「あら、お役人様。今日は何のご用ですか?」



 村人に薬を届けに行っていたメアリが帰って来た。



「ああ、メアリさん。今日は魔女様にお伺いしたいことがありまして……今、どちらにいらっしゃるのかな?」



「それでしたら、目の前にいらっしゃいますけど」



「ええっ! このお嬢さんが魔女? 随分とお若く見えますが……?」



 まじまじと顔を見られた。どうやら私が本当に魔法を使って、見た目を若く見せていると疑っているみたいだ。



「あの、魔女と呼ばれていますが、私は普通の人間です。多少の薬学の知識があるだけで……」



「そうでしたか。申し遅れました、ここら一帯の町や村を担当している下級役人のフィリップと申します。本日は、あなたが作られた薬について伺いたいことがあり、参上いたしました」









「おっしゃりたいことはわかりました。でも、今のところ私の薬が流行り病に効くという確証はありません」



 フィリップが言うには、流行り病の死者が出ていないのは、私たちの村だけらしい。しかも、咳が出始めても、私の薬で治ったという話を、複数の村人から聞いたとのことだ。



 私も、私が作った薬が、流行り病の特効薬になればどんなに良いかと思っている。しかし、人の生命を左右することに関して、いい加減な発言はできない。



「わかりました。でも、あなたの薬は、可能性の一つとして心にとめておきます……ケホッ……、失礼、むせてしまいました。それではまた」