「けほっ、けほっ……」



 ドアを開けた途端、埃が舞い上がり、私の喉を刺激した。



 離れとは名ばかりの、いわゆる物置である。



 実は私は、離れに来る前に、母のところへ寄っていた。どうして愛着のある部屋をカタリナに譲り、離れに移動しなければならないのか、納得できる理由を母の口からちゃんと聞きたかったからだ。



 逃げられると思ったが、意外にも母は直接私に理由を教えてくれた。



 ――聖女はいつ、いかなるときも、民の心を知り、民に寄り添わなければならない。自分一人の力で離れをきれいにし、庶民の生活を知れ。



 母の言い分はこのような感じだった。私は瞬時に嘘だと見破ったが、あえて指摘せず、今回はこのまま引き下がることにした。









 私は生まれてこの方、家事をほとんどやったことがない。



 だからいきなり掃除をしろと言われても、やり方がわからない。そもそも、離れには掃除道具らしきものもなかった。 



(まずは掃除道具を調達しないと)



 私は建物の外に出た。



 外に出てしばらく歩くと、使用人たちの話声が聞こえてきたので、掃除道具のことを尋ねようと声がする方に足を向けた。



「カタリナ様ってどういう方なんですか? その……エリザベート様にそっくりですよね」



 年若い使用人が、年長の使用人に聞いていた。



 今、二人の前に歩み出て、話しかけられる雰囲気ではなくなった。



 いや、正直に言おう。私はこの二人の会話が気になり、物陰に身を潜め、じっと聞き耳を立てていたのだ。