かくして私は、次期聖女という高貴な立場から、あっという間に追放者になった。



 将来、聖女になる運命の元に生まれ、次の聖女として育てられ、私自身も聖女になることに何一つ疑いを持っていなかった。



 それが急になくなった。



 私はわずかな硬貨を持たされて、ほとんど着のみ着のままの状態で、生まれ育った場所を追い出された。









 私は、宮殿から一番近くにある町にたどり着いた。 



 ――〈聖女〉が私の人生の全てだった。〈聖女〉しか知らない私は、これから先どうやって生きて行けばいいのか?



 そんなことを考えながら町中を歩いていると、道行く人と肩がぶつかった。









「これ、あんたの?」



 突然背後から声をかけられ、振り向くと、私の硬貨の入った袋を持った少年がいた。



「私ったら、落としてしまっていたのかしら? 拾ってくれてどうもありがとう」



「違うよ。さっき肩をぶつけられただろ? その時に掏られたんだよ」



「そうなの? 全然気が付かなかったわ……」



「あんた、どこかの貴族のお姫様だろ? そんな高そうな服を着て、一人でふらふらしていたら、狙われるに決まってる」



 少年に指摘され、私は自分の服と町の人たちの服を見比べてみた。私が来ている服は、特別華美なものではなかったが、それでも町の人たちの服よりははるかに良い素材が使われていることが、一目でわかった。



「今度町に来るときは、もっと庶民的な格好で来なよ!」



 少年は、袋から硬貨を何枚か抜き取ると、私に袋を投げて寄越した。 



(町の人たちが粗末な服を着ていることも、平気で他人のお金を盗むような人がいることも知らなかったわ……)