「あなたが、こんなにふしだらな娘だったなんて思ってもみなかったわ!」



 母の思惑通り、アベルは、私に誘惑され、同意の上で関係を持ったと泣きながら訴えた。でたらめを、さも本当ことのように感情を込めて話す様子は、まさに迫真の演技であった。



 アベルに乱暴された私がふしだらなら、夫がいる身で、他の男性と恋に落ち、挙句の果てにその男性の子を産んだ母は何なんだろう?



 私は、無意識のうちに、不満を顔に出してしまっていたようだ。それに気がついた母は、こう付け加えた。



「次期聖女の身で異性を連れ込み、破廉恥な行為に及ぶとは……何と言うことでしょう……!」



 私にはもう反論する気力はなかった。私が何を言おうと何も変わらない。



 しかし、危機的な状況にあるにも関わらず、私は意外と冷静であった。最悪な状況に備え、準備をしておいたからかも知れない。



 ――早くこの茶番が終わって欲しい。









「マリア、先ほどからずっと黙っているけど、言うことはないの?」



「……」



「黙っているのは、全てを認める、ということね?」



「……」



 沈黙こそが、私のせめてもの抵抗であった。



「これであなたが、次期聖女にふさわしくない人物であることがよくわかりました」



 母は立ち上がり、その場にいる全員の顔を見渡した。



「マリアをこの国から追放し、カタリナを次期聖女といたします」