聖女の夫がいなくなったというのに、誰も騒いだり、慌てている様子はなかった。

 おそらく、父が姿を消してくれた方が、母にとっては都合が良かったのだろう。もしくは、母が、父が自発的にいなくなるように仕向けたのかもしれない。

 どちらにしろ、父が無事に逃げ果せているといいが……。





 父と入れ替わるようにして、ある一団が私たちが住む宮殿やってきた。

 その一団を笑顔で出迎えたのは、母とカタリナ。

 特に、一人の男性が馬車から降り立つと、母は私や父の前では決して見せたことのない表情になった――カタリナに向ける表情とは、また別種のもののようであった。

 だが、母のわかりやすいその表情から、その男性が、カタリナの父――聖女の二番目の夫になる人物だとすぐに理解した。





 離れの目の前には、大きな木がある。この木は、ちょうど花の時期が終わりかかっており、枝から落ちた花びらが、地面を覆いつくしていた。

 そのため、雪のように積もった花びらを掃除するのが、最近の私の日課であった。

 今日もいつものように、私は木の下を掃除していた。

 すると突然、大量の花びらが上から降ってきた。そして次の瞬間、私の頭上から人が落ちて来て、私の目の前の地面に叩きつけられた。