「辞めた? いつ?」



 私は絶句した。



「一週間くらい前だと思います……」



 一週間前と言ったら、メアリがちょうど離れに来なくなった時期と重なる。



 やっぱり――という思いが頭をよぎった。だが、念のため、私はエマに確認してみた。



「どうしてメアリは辞めたの?」



「何でも……物を盗んだとかで……」



「メアリが? そんなことはあり得ないでしょう!」



 私は思わず声を荒げた。



 長年真面目に働いてきたメアリが、窃盗など馬鹿な真似をするだろうか?



「私だって信じられません……」



 エマはそれっきり黙り込んでしまった。



 かわいそうなメアリ! 私に関わってしまったばかりに、濡れ衣を着せられて、職まで失うことになるとは……。









 ある深夜のこと。離れに予期せぬ訪問者がやってきた。



「お父様! こんな夜中にどうされたのですか?」



「大事な話がある。中に入れてくれないか」



 私は戸惑った。つい最近、メアリの一件があったばかりだ。父がここに来たことを誰かに見られたら、父も不都合な立場に追いやられないか。



 父のことを考え、一旦は断ろうかと思ったが、父の深刻な表情を見て、気が変わった。



「どうぞ……」 



 私は父を中に招き入れた。



 そもそもこんな夜中に誰かが来ること自体驚きだが、その誰かが父だったということで、私はさらに驚かざるを得なかった。何かのっぴきならない事情が生じたのであろう。



「何かあったのですか?」



「急いで支度をしなさい。すぐにここから出るんだ」