「あなた…だれ?」
そんな言葉に紗凪はハッと意識を浮上させ、必死に言葉を探す
「相浦紗凪っ!!おんなじクラスなんだけど…覚えて、ない、ですかっ!?!?」
紗凪は必死に自己紹介をするが覚えられていないかもしれないという衝撃と、彼女の瞳に見つめられ自分の先程の行為にあらためて恥じらいを感じ語尾が弱々しくなってしまった。すると黙っていた彼女が言った。
「私、人と関わる事ないからクラスの人の名前全然覚えてないの。でも、貴方の顔なら見たことあるわ。いつも貴方の周りは騒がしいもの」
「あ、うん……それは、ごめん?」
顔は覚えられていたという安心感と、騒がしいと言われてしまった事で紗凪は嬉しいような申し訳ないような気持ちになった。緩んだ空気に少しぼんやりとしていたが、先程行ってしまった自分の愚行を思い出しまだ謝罪をしていないことに気づいた。
「その、急に意味わかんない事して本当にごめんっ!!」
勢いよく頭を下げて謝る紗凪に対し雨音は変わらない表情で言った。
「謝罪はしなくても大丈夫、私はそこまで気にしていないから。それよりもどうして私の頬にキスをしたのか理由が気になるのだけれど」
興味深いという感情を視線に混ぜ、それを紗凪に向ける雨音。
まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったがどこかきらきらとしている彼女のそれに紗凪は居心地の悪そうに答える
「いや、ひどく貴方が綺麗だったから…つい」
そういうと雨音は関心したように顎に手を置き頷く、その仕草はまるで女神のように可憐で美しかった。
「そう…けど寝ている少女の頬にキスをするのはもうやめておいた方が良いわ、変態だと誤解されかねないから」
雨音から発せられた言葉の棘が容赦なく紗凪の胸に突き刺さる
「うん、そうしておくよ…」
しばらくの沈黙、二人しかいないこの空間でどちらも何も発さない。しかし外されると思っていた視線が外されず、何とも言えない空気が漂う。不穏な雰囲気になにをされるのかとビクビクしていると、紅色の唇が開かれた。
「あなた、私にお詫びをしたいとは思わない?」
この状況下でそんな事を言われると思ってなかった紗凪は気が抜けて反応することが遅れてしまった。しかし、確かに申し訳ないと思っているしなにか自分に出来ることがあるならしたいと紗奈は思った。
「お、もいます」
お詫び、高嶺の花であり純白の彼女にキスなどという事をしでかしてしまった自分は一体何をさせられるのか。緊張感が漂う中、彼女からの次の言葉を待った。
「なら、私の恋人になってほしいのだけれど」
その瞬間、木のせせらぎ、鳥の鳴き声、カーテンの揺れる音、それら全てがスローモーションになったように感じた。
まさか、まさか自分にあの高嶺の花が恋人になってほしいと要求してくるなどと一ミリも思考になかった紗凪はひと言を理解するには長すぎる時間を使い、その言葉の真意を考えた。
しかし導き出される答えなど一つしかなく、それは確実に自分に向けられていて、疑惑と疑念が紗凪を支配する
「どうして、?私なんかに?」
単純な疑問だった。雨音からすれば放課後寝ていたら、自分の頬にいきなりキスをしてきたおかしな奴のはずなのに。そんな自分に何故恋人になって欲しいと提案をしてきたのか、紗凪にはよくわからなかった。
「恥ずかしい話、さっきも言ったけど私人とあまり関わってこなかったの。でも私もそろそろ恋人の一人や二人欲しいのよ、親にも心配をされてしまっているし…。それに貴方、私にキスをしたということは貴方は私に好意を持っているという事でしょう?どう?悪い話じゃないと思うのだけれど。」
紗凪の頭に流れ込む多すぎる情報量、未だにこれが夢なのか現実なのか理解できていないまま紗凪は自分の思考回路を整理しながら言った。
「えっと、、つまり人と関わらなすぎて恋人ができないことで親に心配されちゃってるから私と付き合いたいっこと…?」
そういうと雨音は鋭い目つきで紗凪を睨んだ。紗凪のストレートな言葉が彼女の癪に触ったのだろう。
「それだけじゃないわ、私は知りたいのよ恋という感情を」
先程までわずかによっていた眉間のしわがなくなり、懇願するような表情で言う雨音に紗凪は疑問をぶつけた。
「でも私女の子だよ?私が特殊なだけで、白玖さんが私に恋愛感情を抱く可能性なんて低いと思うし」
そう、この話の一番の問題は二人が同性同士だという事だ。最近こそジェンダーレスが認められてきてはいるがまだそれが通常というわけではないのだ。ジェンダーレスの人口は少人数でありたまたま紗凪が当てはまっただけで雨音が必ずしも当てはまるわけではないのだ。しかし雨音はそれがなんだと言うように腰に片手を当てて言った。
「貴方、まだそんな事を言っているの?古い考えはやめた方がいいわ。いい?人は必ずしも異性に好意を抱くわけじゃない。好きな人に好意を抱くのよ。少なくとも私はそう思うわ。」
その言葉は紗凪の心にスッと入ってきた。この感情を抱いた時から、自分が一番わかっていたはずなのに、そんな自分すらもこの感情を異常だと決めつけてしまっていた。それに比べて雨音の視線は真っ直ぐでなんの穢れも含んでいない。彼女の言動に疑念を抱いていた過去の自分がひどく恥ずかしい。
「そっか、わかった。いいよ!私雨音さんの恋人になる!」
紗凪がそういうと、雨音は目を見開いた。雨音の目元は元々くりくりとしていて大きいため見開かれている事でこぼれ落ちそうになっていた、それをみて紗凪は少しヒヤヒヤしていた。
「い、いの?本当に?」
雨音の信じられないというような発言に紗凪はクスッと笑って言った。
「なんで雨音さんが驚いてるの?雨音さんが恋人になって欲しいって言ったんでしょ?」
首を傾げてそう言う紗凪を夕陽のライトが照らしていて雨音は手を伸ばしかけた。
彼女は自分を美しいと言っていたが、彼女の方が自分なんかよりも綺麗で穢れをしらないように雨音は思えた。
雨音は自分の容姿が整っている方なのだと自負している。親からもクラスメイトからも、時には全くの赤の他人にさえ自分の容姿を褒められ続けてきた。
雨音はそんな容姿を誉める言葉が自分の皮しか求められていないように思い、ずっとずっと嫌悪感を抱いていた。誰も、自分の中身など見てくれない。必要とされていない。
そう思った雨音は人間関係を築く事を避けていた。しかし目の前にいる紗凪が発した自分の容姿を誉める言葉には何故か嫌悪感を抱かなかった。それどころか嬉しいとさえ思ってしまった。雨音はその違和感の理由が今、なんとなくわかった気がしていた。そして雨音も少し微笑んで言った。
「ふふっそうだったわね、じゃあよろしくね私の恋人さん?」
からかって雨音がそう言うと紗凪はボフンっ!と音を立てて顔を赤面させた。しかし雨音はそんな事を気にせずに続けた。
「でも、もうそろそろ日も落ちてくるし、帰った方が良さそうね。」
ふと紗凪が窓の外をみると、先程まで茜色だった空が段々と藤色に変わり始めていた。
「そうだね、帰ろうか。」
紗凪がそういいながら鞄を持ち、帰る準備をしていると、雨音が隣に来ていて必然的に二人は一緒に帰ることになっていた。
特に会話もなく、かと言って気まずいような雰囲気な訳でもなくどこか心地の良い暖かい雰囲気が二人の間を漂っていた。
すると突然紗凪の手をするりと雨音の手が塞いだ。
驚いて隣を見ると澄ました表情をしている雨音がいた。
やはり少しの羞恥心と喜びを感じているのは自分だけなのかと落胆していたが、赤くなった頬を僅かに暗くなった空が誤魔化していた事を紗凪はまだ知らない。
そんな言葉に紗凪はハッと意識を浮上させ、必死に言葉を探す
「相浦紗凪っ!!おんなじクラスなんだけど…覚えて、ない、ですかっ!?!?」
紗凪は必死に自己紹介をするが覚えられていないかもしれないという衝撃と、彼女の瞳に見つめられ自分の先程の行為にあらためて恥じらいを感じ語尾が弱々しくなってしまった。すると黙っていた彼女が言った。
「私、人と関わる事ないからクラスの人の名前全然覚えてないの。でも、貴方の顔なら見たことあるわ。いつも貴方の周りは騒がしいもの」
「あ、うん……それは、ごめん?」
顔は覚えられていたという安心感と、騒がしいと言われてしまった事で紗凪は嬉しいような申し訳ないような気持ちになった。緩んだ空気に少しぼんやりとしていたが、先程行ってしまった自分の愚行を思い出しまだ謝罪をしていないことに気づいた。
「その、急に意味わかんない事して本当にごめんっ!!」
勢いよく頭を下げて謝る紗凪に対し雨音は変わらない表情で言った。
「謝罪はしなくても大丈夫、私はそこまで気にしていないから。それよりもどうして私の頬にキスをしたのか理由が気になるのだけれど」
興味深いという感情を視線に混ぜ、それを紗凪に向ける雨音。
まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったがどこかきらきらとしている彼女のそれに紗凪は居心地の悪そうに答える
「いや、ひどく貴方が綺麗だったから…つい」
そういうと雨音は関心したように顎に手を置き頷く、その仕草はまるで女神のように可憐で美しかった。
「そう…けど寝ている少女の頬にキスをするのはもうやめておいた方が良いわ、変態だと誤解されかねないから」
雨音から発せられた言葉の棘が容赦なく紗凪の胸に突き刺さる
「うん、そうしておくよ…」
しばらくの沈黙、二人しかいないこの空間でどちらも何も発さない。しかし外されると思っていた視線が外されず、何とも言えない空気が漂う。不穏な雰囲気になにをされるのかとビクビクしていると、紅色の唇が開かれた。
「あなた、私にお詫びをしたいとは思わない?」
この状況下でそんな事を言われると思ってなかった紗凪は気が抜けて反応することが遅れてしまった。しかし、確かに申し訳ないと思っているしなにか自分に出来ることがあるならしたいと紗奈は思った。
「お、もいます」
お詫び、高嶺の花であり純白の彼女にキスなどという事をしでかしてしまった自分は一体何をさせられるのか。緊張感が漂う中、彼女からの次の言葉を待った。
「なら、私の恋人になってほしいのだけれど」
その瞬間、木のせせらぎ、鳥の鳴き声、カーテンの揺れる音、それら全てがスローモーションになったように感じた。
まさか、まさか自分にあの高嶺の花が恋人になってほしいと要求してくるなどと一ミリも思考になかった紗凪はひと言を理解するには長すぎる時間を使い、その言葉の真意を考えた。
しかし導き出される答えなど一つしかなく、それは確実に自分に向けられていて、疑惑と疑念が紗凪を支配する
「どうして、?私なんかに?」
単純な疑問だった。雨音からすれば放課後寝ていたら、自分の頬にいきなりキスをしてきたおかしな奴のはずなのに。そんな自分に何故恋人になって欲しいと提案をしてきたのか、紗凪にはよくわからなかった。
「恥ずかしい話、さっきも言ったけど私人とあまり関わってこなかったの。でも私もそろそろ恋人の一人や二人欲しいのよ、親にも心配をされてしまっているし…。それに貴方、私にキスをしたということは貴方は私に好意を持っているという事でしょう?どう?悪い話じゃないと思うのだけれど。」
紗凪の頭に流れ込む多すぎる情報量、未だにこれが夢なのか現実なのか理解できていないまま紗凪は自分の思考回路を整理しながら言った。
「えっと、、つまり人と関わらなすぎて恋人ができないことで親に心配されちゃってるから私と付き合いたいっこと…?」
そういうと雨音は鋭い目つきで紗凪を睨んだ。紗凪のストレートな言葉が彼女の癪に触ったのだろう。
「それだけじゃないわ、私は知りたいのよ恋という感情を」
先程までわずかによっていた眉間のしわがなくなり、懇願するような表情で言う雨音に紗凪は疑問をぶつけた。
「でも私女の子だよ?私が特殊なだけで、白玖さんが私に恋愛感情を抱く可能性なんて低いと思うし」
そう、この話の一番の問題は二人が同性同士だという事だ。最近こそジェンダーレスが認められてきてはいるがまだそれが通常というわけではないのだ。ジェンダーレスの人口は少人数でありたまたま紗凪が当てはまっただけで雨音が必ずしも当てはまるわけではないのだ。しかし雨音はそれがなんだと言うように腰に片手を当てて言った。
「貴方、まだそんな事を言っているの?古い考えはやめた方がいいわ。いい?人は必ずしも異性に好意を抱くわけじゃない。好きな人に好意を抱くのよ。少なくとも私はそう思うわ。」
その言葉は紗凪の心にスッと入ってきた。この感情を抱いた時から、自分が一番わかっていたはずなのに、そんな自分すらもこの感情を異常だと決めつけてしまっていた。それに比べて雨音の視線は真っ直ぐでなんの穢れも含んでいない。彼女の言動に疑念を抱いていた過去の自分がひどく恥ずかしい。
「そっか、わかった。いいよ!私雨音さんの恋人になる!」
紗凪がそういうと、雨音は目を見開いた。雨音の目元は元々くりくりとしていて大きいため見開かれている事でこぼれ落ちそうになっていた、それをみて紗凪は少しヒヤヒヤしていた。
「い、いの?本当に?」
雨音の信じられないというような発言に紗凪はクスッと笑って言った。
「なんで雨音さんが驚いてるの?雨音さんが恋人になって欲しいって言ったんでしょ?」
首を傾げてそう言う紗凪を夕陽のライトが照らしていて雨音は手を伸ばしかけた。
彼女は自分を美しいと言っていたが、彼女の方が自分なんかよりも綺麗で穢れをしらないように雨音は思えた。
雨音は自分の容姿が整っている方なのだと自負している。親からもクラスメイトからも、時には全くの赤の他人にさえ自分の容姿を褒められ続けてきた。
雨音はそんな容姿を誉める言葉が自分の皮しか求められていないように思い、ずっとずっと嫌悪感を抱いていた。誰も、自分の中身など見てくれない。必要とされていない。
そう思った雨音は人間関係を築く事を避けていた。しかし目の前にいる紗凪が発した自分の容姿を誉める言葉には何故か嫌悪感を抱かなかった。それどころか嬉しいとさえ思ってしまった。雨音はその違和感の理由が今、なんとなくわかった気がしていた。そして雨音も少し微笑んで言った。
「ふふっそうだったわね、じゃあよろしくね私の恋人さん?」
からかって雨音がそう言うと紗凪はボフンっ!と音を立てて顔を赤面させた。しかし雨音はそんな事を気にせずに続けた。
「でも、もうそろそろ日も落ちてくるし、帰った方が良さそうね。」
ふと紗凪が窓の外をみると、先程まで茜色だった空が段々と藤色に変わり始めていた。
「そうだね、帰ろうか。」
紗凪がそういいながら鞄を持ち、帰る準備をしていると、雨音が隣に来ていて必然的に二人は一緒に帰ることになっていた。
特に会話もなく、かと言って気まずいような雰囲気な訳でもなくどこか心地の良い暖かい雰囲気が二人の間を漂っていた。
すると突然紗凪の手をするりと雨音の手が塞いだ。
驚いて隣を見ると澄ました表情をしている雨音がいた。
やはり少しの羞恥心と喜びを感じているのは自分だけなのかと落胆していたが、赤くなった頬を僅かに暗くなった空が誤魔化していた事を紗凪はまだ知らない。