思えば、彼女は初めから不思議な人だった。


彼女を紗奈(さな)が初めて間近で見たのは黄昏時(たそがれどき)の教室だった。

金色の光を身に纏い(まとい)、いつもは一際目立つ綺麗な琥珀色(こはくいろ)の瞳は瞼で隠されていて長いまつ毛を主張する。

そこだけが異様な雰囲気に包まれていた。

彼女は学校中で噂をされるほど有名だった。

目立つ白髪の髪

薄い琥珀の瞳

大きくまんまるな目元に

高く整った鼻

白雪姫をおもわせる赤い唇に

純白の白い肌

その全ての美しさを凝縮(ぎょうしゅく)した小さな輪郭

いい意味で噂をされる彼女はまさに高嶺の華

口数は少なく、友人を連れて廊下を歩いている姿や、楽しそうに笑いながら雑談などをしている姿を見たことはなかった。

よく見るのは本を抱え颯爽(さっそう)とあるくの彼女の姿と、垂れかかった長い髪の毛を耳にかけ直しながら真剣に読書をしている姿だけ。

紗凪には彼女はいつもどこか寂しげに見えた。

しかし、彼女の隙など見たことのなかった紗凪は珍しく無防備な彼女に糸で引かれるように引き寄せられた。

触れたいという感情が紗凪を支配し、気づけば紗凪は彼女の頬に触れていた。

少しでも力を入れて仕舞えば崩れ去ってしまうような、そんな儚さをも持ち合わせている彼女の寝顔に紗凪はこのまま彼女は永遠に起きないのではないのではないのかという錯覚に陥る。

近づいている彼女の小さな寝息が自分がこれから何をしようとしているのかを知らせる。

しかしもう遅い、暴走した紗凪の感情は止められず、
次の瞬間には紗凪の口元にはやわらかい感触が…

やってしまったと思うと同時に琥珀の瞳が姿を現す

「…ぁ、や、あの、えっと」

瞬きを数回繰り返してまだ寝ぼけている様子の彼女の姿に、自分は何て事をしてしまったのか、女の子に、しかも寝ている子の頬にキスをしてしまうなど、嫌われるに決まっている、引かれるに決まっている、何か言わなければ、この状況をなんとか弁明しなければという思考が紗凪の頭で駆け巡っている間に彼女は身体を起こし頬に手を当てていた。

すると彼女はなんて事ないというような、まるで紗凪からのキスを鳥にでも突かれたような表情をして言った

「あなた…だれ?」

これが相浦紗凪と、白玖雨音(しらくあまね)の初めての会話だった。