次の日、学校に行くとやっぱり桐山は来ていなかった。

「麗華〜おはよっ!」

「おはよ愛実! 先輩どうだった〜?」

「えっとね〜あの後一緒に帰ったよ!」

「おー! いい感じじゃんっ」

「でしょーもしかしたら付き合えちゃうかも〜」

「頑張ってね!」

「うん!」

蓮が教室に入ってきた。

「蓮おはよ!」

「成瀬くんおはよー!」

「おうっおはよ」

1時間目の用意を始めようかな、鞄から筆記用具や教科書やノートやワークを出す。あれ、英語のプリントがない、嘘でしょ最悪なんだけど。私の様子に気づいたのか、蓮が心配して話しかけてきた。

「麗華どうした?」

「あ、あのね英語のプリント忘れちゃって」

「ほらよ」

蓮は私にプリントを貸してくれた。

「え、いいの?」

「おう」

「ありがとう」

そして英語の授業が始まった。今日の英語の授業は、先生の話している日本語を英語に変えてプリントに書くというものだった。私は英語が得意で、前にあったテストの点数も私にしたらまあまあの出来だった。チャイムが鳴って英語の授業が終わった。すると、教室のドアから愛実を呼ぶ声が聞こえてきた。

「吉田! ちょっといい?」

どうやら昨日の先輩だった。愛実は嬉しそうに先輩の元へ向かう。頑張れ!すると蓮が話しかけてきた。

「なあ麗華、好きな人ってこのクラスにいるの?」

「えっと、2組だよ、だけど今は入院してて学校来てないんだよね」

「え、そうなんだ、じゃあお見舞いとか行ってあげたら?」

「そうだね」

お見舞いに行ってたげたいけど、どこの病院に入院しているのか分からないので行けないのだ。一度2組の担任の先生に聞いてみようかな。あ、ちょうど先生が1組の教室を覗きに来た。

「先生!」

「ん、どうした?」

「あの2組に、桐山 悠生くんいますよね? でも今入院してて、どこの病院か分かりますか?」

「うーん、個人情報だからな........」

「そこをなんとか、お願いします........」

「しょうがないなー、確か、桜川病院だったかな」

「桜川って、この街の隣の?」

「そうだ」

「ありがとうございます!」

私はさっそく今週の日曜日に行く事にした。元気だといいな、何持って行こうかな、そうだ!昔桐山が好きだった私の手作りクッキーにしようかな、作るの久しぶりだなー。上手く作れるかな。そんな事を考えていると、愛実が戻ってきた。

「麗華! 私先輩と付き合うことになった!」

「え、おめでとう!」

「しかも今度デートしよって言われた!」

「良かったじゃん!」

愛実は、凄いな。どうかお幸せに!

━━日曜日━━

よし、クッキーも無事に作れたし、そろそろ行こうかな。私は久しぶりに桐山に会えるのでウキウキしていた。私、頑張って桐山に気持ち伝えようかな、今日は伝えれる気がする。玄関を出て駅まで歩き、やっと桜川駅に着き、そこから10分ほど歩いて、病院に着いた。だが私は重要な事を忘れていた。それは桐山がどの階で、どの病棟にいるかだ。どうしよう、もう会えない。私はもう帰ろうとしたその時だった、桐山が病院から出てきたのだ。

「桐山ー! 久しぶり!」

「........」

桐山の様子が変だった。

「どうしたの?具合でも悪いの?」

「す、すみません、あなたは誰ですか」

「え!? ちょっと〜冗談やめてよ!」

「あの、ほんとうにごめんなさい」

「え、ちょっと待って!」

桐山はそう言って私から逃げるようにどこかへ行ってしまった。え、どういう事?私の事忘れてしまったの?目から涙が込み上げてきた。なんで、お願いだから戻って来てよ。私、まだ自分の気持ち桐山に言えてないよ........。蓮が言っていた後悔はまさに今現実で起きてしまった。私もっと早く気持ち伝えたら良かったな。もう帰ろう。

「ただいま」

家にはお母さんもお父さんも出張で居ない。誰もただいまって言ってくれない。誰もいないんだし当たり前か、でもなんか寂しいな。
すると静かなリビングに1つの電話がかかってきた。誰だろう?私は電話を取り耳にあてた。

「もしもし」

「もしもし伊藤、久しぶり! そういえば俺が入院してる病院教えるの忘れてたよな?」

なんとその声は桐山だった。え、さっき私の事忘れてたよね、どういう事なの。

「う、うん。だけど先生に教えて貰ったから大丈夫だよ。それよりさ、桐山今日私に会わなかった?」

「それよりってなんだよ、今日? んー、俺ずっと病院にいたから伊藤には会ってないな」

「そうなんだ、」

「それがどうかした?」

「うんうん、なんでもないっ」

「あのさ、明日桐山に会いに行ってもいいかな?」

「あっ、ちょっと今呼ばれたから行くわ、伊藤さっきなんか言った?」

「いや、なんでも........じゃあばいばい」

「おうっ」

こうして私たちの会話は終わった。一度忘れてしまってもまた思い出せるんだ、私は記憶障害についてネットで調べてみることにした。桐山の記憶障害は確か事故のストレスが関係してあるって言ってたよね、えっと、記憶障害とは自分が体験した過去の出来事が記憶から無くなる障害の事、また新しい出来事を覚えれない、覚えていた事が思い出せない症状。記憶障害って1つじゃなくて色々な種類があるんだ、初めて知ったな。でもネットに書いてる事が難しくて全然分かんないよー。時計を見ると11時だった。え、もうこんな時間!?早く寝よ。私はベッドに入って目を閉じた。それから私の年月はあっという間にすぎていき、高校2年生、高校3年生になった。そして明日はとうとう卒業式なのだ。




━3月1日 卒業式━

「ピピピ ピピピ」

私はアラームを止めてベッドから降りた。今日は3月1日高校の卒業式だ。私は髪型を整え、朝ご飯を食べ、いつものように支度する。桐山は今日も学校に来ないのかな。玄関のドアを開け、通学路を歩く。今日でこの景色を見るのも最後だろう。空は眩しいほど晴れている。学校が見えた。後ろから蓮が追いかけてきた。3年生になると蓮とは違うクラスになってしまった。だが奇跡的に愛実とは同じクラスになれた。確か、蓮は2組で桐山は3組だった。ちなみに私と愛実は4組だ。

「おはよ蓮!」

「おはよっなんか今日で最後とか全然実感わかねえな」

「うん、私も」

桐山が学校に来なくなって以来、私の時間はずっとずっと止まっていた。そして今も。今日が卒業なんて信じられないな........。学校に植えている桜は満開だった。凄く綺麗。桐山にも見せてあげたい。

教室に着くとクラスの皆は今日が卒業式だと言うことにソワソワしていた。愛実が教室に入ってきた。

「おはよ! 愛実」

「おはよー麗華! 今日で最後とか嫌だよー」

「だよね、ずっと高校生がいいな」

教室に先生が入ってきた。

「お前ら、この3年間ありがとな。卒業式でヘマするなよ?」

こうしてとうとう卒業式が始まった。校歌を歌い、来賓の方の紹介などが終わり、今から卒業証書授与式が始まる。桐山が来ているか分からないのでこの時に確認しようと思った。

「3年3組 桐山 悠生欠席」

やはり桐山は来ていなかった。だけど、どこか心の中でもしかしたら来てるんじゃないかって期待してしまっていた。最後ぐらい顔見たいし、声聞きたいな。

そして卒業式は終わりを迎えた。私の3年間、入学式、体育祭、文化祭、修学旅行どれも思い出に残っている。だけど桐山との思い出は1年生の体育祭で終わってしまった。あれから1度も会っていない。あっ、そういえば卒業式が終わったら愛実と蓮と集まろうって約束してたんだった。えっと、場所は学校のすぐ隣にあるファミリーレストランだ。

「愛実、蓮、3年間ありがとう!」

「おうっ」

「うん! こちらこそ」

すると進路の話になった。

「そういえば、麗華って専門学校行くんだよね?」

「そうだよ、調理とか製菓に興味あるんだよね。愛実も確か専門学校だっよね?」

「そうそう! 将来はメイクとか美容系の道に行きたくて」

「成瀬くんはどこ行くの?」

「俺は将来親の会社を継がなきゃ行けないから営業とか企業に特化した大学に行く」

蓮が社長か、凄いな........。

「蓮凄いね、」

「ほんと! 成瀬くんが社長ってなんか面白いね」

「どこがだよ」

蓮はいつもの笑顔で笑っていた。ほんと変わらないな。

「よし、そろそろ帰るか」

蓮が時計を見ながら言った。

「そうだね」

「うん、じゃあ成瀬くん、麗華またね!」

「またねー!」

「またな!」

こうして私たちは、それぞれの道を進んで行った。そして、卒業してからは春休みなので、あまりやる事がなく、私は退屈だったので少し外を散歩しようと思った。歩いていくと、私が小学生の時によく遊んでいた公園に着いた。やっぱり懐かしいな、ここで桐山と約束したんだよね。ちょっとブランコ座ってみよ、こんな歳だけど、いいよね?私はブランコに揺れながら春の風を感じていた。暖かくて眠くなってきた。

すると、隣のブランコに誰か座った。子供かな?そろそろ行こう。ふとその隣を見た。え!?そこには桐山が座っていた。桐山は私の方を見て、喋りかけてきた。

「麗華?」

え、麗華って、桐山は私の事を苗字で呼んでいたはず、どうして........。あっ、私の事をどうやって呼んでいたのか久しぶりすぎて忘れちゃったのかな。

「あれ、違う? 俺麗華の事なんて呼んでたっけ」

「麗華でいいよ。それよりさ病院はもう退院したの? もう大丈夫なの?」

「おう。ちょっとずつマシになってきてさ、医師にはもう再発しないだろうって言われた。あのさ思い出したんだよ。」

「なあ麗華、ごめんな。俺あの約束の事ずっと忘れてた。」

え、桐山が........桐山があの約束を思い出してくれた。私やっと自分の気持ちが言えそう。目から沢山の涙が溢れてきた。

「もう、忘れてたなんて酷いよー」

「ごめんごめんっだってしょうがないだろ?泣くな!」

「よし、改めて言うから聞いとけ、これから一生何があっても麗華を守ります。だから、だから俺と結婚を前提に付き合ってください」

え、結婚!?私は心臓が止まりそうだった。嬉しい、嬉しいよ........。桐山、私も今から言うね。

「私からも言うことがあります。聞いてください。私ね、桐山が虐めから私を助けてくれた時ヒーローに見えたの。かっこいいなって、私も桐山の事が好き。もちろん!こんな私で良ければ、付き合ってください!」

やっと、やっと言えたよ。私桐山に伝えれた。

「麗華、それはほんとうか!? 俺すげえ嬉しい! これからもよろしくな」

「うん! こちらこそ」

「あとさ、桐山の事これから悠生って呼んでもいい?」

「もちろんだよ」


こうして3年後、私たちは式を挙げ、今も楽しく過ごしています。当然辛いこともあったけれど、悠生がいるから乗り越えられた。ほんとうにいつもありがとう。