空を見ながら家に向かう。空は凄い。言葉では言い表せれない何かが私の心に溶けていく。今日の空はいつもよりも一段と綺麗だった。私は自分の携帯でいつの間にか写真を撮っていた。夕焼けは、赤色やオレンジ色がグラデーションになっている。太陽に照らされ、神様が私を導いているような感じで、
まるであの日と同じ景色だった。

「明日か........」

私は何故かこの言葉が口からこぼれた。

私は昔、明日が怖くて怖くて、いつも怯えていた。明日なんて来るなって。
きっかけは、私が中学1年生の時だった。最初は普通に過ごしていた。部活もバスケ部に入っていて、1年生ながらにもスタメンに抜擢された事もあった。友達もたくさんいて、毎日が楽しかった。

ある日同じクラスの男子に告白された。彼は委員会が同じで、話す機会も多々あった。
私のことを好きになってくれた事は紛れもなく嬉しかった。だけど当時、恋愛にはあまり興味がなかったため、彼からの告白を断ってしまった。

そこからだった........。そこから私の楽しかった日常が嘘みたいに消えていった。
彼はクラスの皆から人気だったため、私が振った事がクラスの皆に知れ渡り、皆は私の陰口を言ったり無視をするようになった。
いつも私に笑いかけてくれる子も人格が変わってしまった。辛い、苦しい、逃げたい。

ある日私の机に落書きをされていた。誰が書いたのか分からない。私は耐えきれなくなってその場で泣いていた。それでも皆は私を睨みつけてくる。何がダメだったんだ。あの告白を無理にでも引き受けていたら今の私はこんな辛い思いをしなくても良かったの?

もうダメだと思った時。


「おい! 伊藤、雑巾持ってきた」

え、誰!?

私は俯いていた顔を上げた。
そこには雑巾を持った桐山が立ってい
た。私は、桐山が一瞬だけヒーローに見えた。闇に飲まれていた私の心に桐山は光を照らしてくれた。闇を消すように。そして机の落書きもするすると消えていった。 ヒーローみたい。

「ありがとう、桐山くん」

「おうっ!」

私は泣きながら桐山に伝えた。

それでも虐めは無くならなかった。無くなるどころか、どんどん酷くなってしまった。
私は学校に行けなくなった。
家は安心する。誰も私を傷付けない。
だけど、お父さんやお母さんに迷惑をかけてしまっている事を感じる。

「また学校休むの?」

「うん。ちょっと体調が........」

「明日は絶対に行きなさいね」

「........」

こんな会話が毎日続く、辛いな、明日なんて来なければいいのに、明日が嫌い。
私は気分転換に外を散歩してこいと言われた。重い足を上げながら靴を履く、玄関の扉が軽く開いた。夏の空が夕焼けに染まっている。心がちょっとだけ楽になった気がした。少し歩いていたら、私が小学生の時にいつも遊んでいた公園に辿り着いた。ブランコに誰か座っている。桐山だった。桐山は私に気づいたのだろうか、こっちに向かって走ってくる。私は逃げようと思った。だけど足は動かなかった。

「おーい! 伊藤」

やっぱり気づかれていた、そして桐山はにこにこしながら私の目の前に立ってきた。

「桐山くん........」

「桐山くんじゃなくて、桐山でいいよ」

「うん、分かった」

「なあ伊藤、そろそろ学校来いよ」

私は学校が嫌いになっていた。

「........」

「じゃあさ、俺が一生伊藤の事ぜってえ守る! その代わり伊藤は明日から学校に来い」

「えっ、一生?」

「うん、一生だ、約束しようぜっ」

「う、うん........! 約束」

「破るなよ?」

「もちろん」

「じゃっまた明日な!」

「うん! 明日!」

綺麗な夕焼けと共に、私たちは約束を交わした。
桐山は走りながら帰って行った、明日........。
行かなきゃだよね、約束したんだし、
でも怖いよ、ふと桐山の顔を思い出した。
桐山の笑顔は凄く気持ちが楽になる。

よし、行こう!

そして、その明日が来た。私は少し気分が悪かった。久しぶりに制服を着るので違和感を感じた。朝ごはんを食べ、学校の支度をしていた。その姿を見ていたお父さんとお母さんは嬉しそうだった。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

靴を履き玄関の扉を開ける。

空が私を待っていた。太陽が眩しい、雲が1つも無くて、こんな綺麗な青空は見たことがない。いい気分だ。足取りも軽い。学校が見えてきた。

「おっ! 伊藤!」

「おはよ! 約束通り来てくれたんだなっ」

「うん。ちゃんと私の事守ってね」

「おう! 任せろ」

教室のドアを桐山が開けてくれた。震えそうな足をしっかりと踏ん張って私は教室に入った。何か言われる。そう思った。だけど、前みたいな虐めの雰囲気は不思議なくらい一切なかった。桐山は皆と仲が良いので、もしかしたら説得してくれたのかもしれない。私は桐山と目が合うと、桐山は強く頷いた。

「もう伊藤は大丈夫だ」

私はこの声に安心して、泣きそうになった。だけどこらえた。だってせっかくの今日が台無しになってしまうから。私は明日を取り戻せた。そして明日を好きになれた。私には桐山がいるから、そして桐山の事を好きになった。ねえ桐山、本当に私を一生守ってくれるの?


中学2年生に上がった時、桐山とは違うクラスになった、でも中学3年生でまた同じクラスになれた。だけど桐山は事故に合い、学校に来れなくなってしまった。もう会えなくなってしまうかと思っていたが、高校がたまたま同じだったので、再会する事ができた。

そんな昔の思い出を思い出していたら、いつの間にか家の前に着いていた。

「ただいま!」