廊下には吹奏楽部の音色、運動場にはサッカー部やテニス部が一生懸命と楽しそうに練習している。
桐山は、サッカー部なので、教室の窓からその練習姿を見るのが私の楽しみでもあり、日課になっていた。
素早くドリブルをしたり、シュートを決めている姿が凄くかっこ良いのだ。
だけど、今日は珍しく桐山の姿がなかった。
どうしたんだろう、何かあったのかな........。
私は急用でもできたのかなと思うことにした。
先生が教室に入ってきた。
「あっ! 伊藤さん! ゴミ捨てお願いしてもいい?今から会議に出席しないといけなくて」
「あっ良いですよ!」
「ありがとね! 助かった」
先生は大急ぎで会議室に向かって行った。
私は少し面倒臭いと思ったが、部活も高校では入らなかったので、放課後は暇なのだ。家に早く帰ればいいと思われるかもしれないが、親がどっちとも出張で家に帰っても1人ぼっちなので、少しでも人と喋りたいのだ。ちょうど喋り相手の愛実は、今日は用事があると言われ先に帰ってしまった。
私はゴミを捨てるため、教室を出て階段を下りる。ゴミ捨て場は体育館裏にあるので、早歩きでそこに向かった。人気があまり無いので、すぐさまゴミを捨てて急いでそこを出た。今日は早く家に帰ろうと思い校門に向かった。その時、桐山の姿見つけた。私は嬉しくて喋りかけようとした。「おーぉ........い」え、嘘でしょ、桐山は私の知らない女子と緊張感をまといながら歩いて行った。目を疑う光景だったので、一瞬私だけ時間が止まった気がした。
私は見過ごしたくないと思い、気が付かれないように2人の姿を追った。すると、さっき私が行った体育館裏に入って行った。私はちょうど向こうから見えない壁に隠れながら何を喋っているのか盗み聞きをした。私の知らない女子は、桐山に告白しているでわありませんか。薄々そんな気がしてたけど、まさか私より先に........。 正直桐山は、モテているのでいつ告白されてもおかしくだろうと思っていた。でもそれを直接見てしまった。私は心が張り裂けそうになった。だって桐山は凄く嬉しそうに笑っていた。涙が止まらなくなり、私は全速力で走った
「早く逃げたい」
気持ちを落ち着かせようと思い屋上に行くことにした。きっとそこには誰も居ないので、思うがままに泣けるだろうと思った。私は喚きながら屋上のドアノブをしっかり掴み、勢いよくドアを開けて砕け散るように倒れた。
すると、顔の上から苦い口調の声が聞こえてきた。「おい、ドアぐらい静かに開けろよ」
私は人が居ないと思っていたのに、そこには太陽の光に照らされた艶のある黒髪に透き通った白い肌、目は切れ長で、すらっとした体型でスタイルの良い男子がいた。彼は呆れたようにこちらを見ている。「ごめんなさい、人がいないと思って........」私はすぐに立ち上がり謝った。彼は私の顔を覗き込んできた。私は反射的に後ろに下がろうとしたが、腕を掴まれた。彼は私の顔に残っていた涙を拭いてくれた。あまりにも突然だったので私は少し熱くなった気がした。私は一応お礼を言った。少し沈黙していると、彼はニヤリと笑ってこう言ってきた。
「高校生にもなって喚きながら泣くなんて超ダサすぎ」
私は意外な言葉だったので少し焦った。
「はあ? いいじやんそんな事人の自由でしょ?」
「それはそうだけど、すげえダサかったからさ、てかなんでそんな泣いてんの?」
私は言うか迷った、でも迷った挙句言うことにした。だって、1人じゃきっと抱えきれない。
だけど、全く知らない人なので名前を聞いた。
「ねえ、君の名前ってなんて言うの?」
「俺の名前は成瀬 蓮、 蓮でいいよ」
「よろしくね蓮! 私の名前は伊藤 麗華、私も麗華でいいよ」
私は仲の良い桐山でさえ苗字呼びだったので、男子と名前で呼び合う事が少しだけ嬉しかった。連の名札を見ると同じ学年だという事が分かった。しかもクラスも一緒だ。でも、こんな人うちのクラスで見た事がなかった。少し名札を見ていると、
「あ、俺明日からこの学校に通うんだ。今日は学校見学的な感じでさ、」
「そうなんだ! 私も一緒のクラスだよ」
「まじで? じゃあ尚更よろしくなっ麗華が幼児みたいに泣き喚いてたって言いふらそっかなー」
「は? やめてよ」
「冗談だしっ泣くなよ?」
「泣かないよ、」
蓮はすぐにからかってきた。
「でさ、なんであんな泣いてたんだよ」
「........中学校から好きだった人がいてさ、その人から告白されるの待ってたらさ、違う女子に告白されてて、」
「そか」
蓮は私に同情すらしてくれなかった。別にして欲しかったわけではないが、少しくらいしてくれたっていいんではないかと思った。すると蓮は真剣な口調で言った。
「俺だったら他の奴に取られる前に告白するけどな」
私は振られるのが怖くて、自分から告白なんてできなかった。蓮の言葉を聞くと早く告白しとけば良かったなとつくづく後悔させられる。
ふと蓮の目を見ると、凄く悲しそうだった。悲しみの中にも少し怒りが見えた気がした。
何か言いたげな、我慢してる感じ........。
「蓮は分かってないな〜女子はねえ、男子から告白して欲しい生き物なのー」
「はあ? 知ってるしっ でも麗華は後悔したじゃん」
蓮は以外にも女心が分かってそうだった。
「痛いとこつくな........」
「あーごめんごめん」
蓮はからかうように笑っている。
その笑顔は目がくしゃっとなっていて、凄く楽しそうだった。私は少し蓮の顔を見すぎたのかもしれない。蓮は隠すようにして横を向いた。私もすぐに目を離した。綺麗だった青空は段々と薄くなり始めた。
「そろそろ帰るか」
「うん。そうだね」
「蓮の家はどっち方面なの?」
「俺はあっち、麗華は?」
「私もそっちっ」
「じゃあ一緒に帰れるな」
「うん!」
私の帰り道は、桐山も愛実も違う方面なのでいつも1人で帰っていた。なので、話し合い手が出来て少し嬉しかった。
「麗華は何でそいつに惚れたんだ?」
「えっ?」
私はまだ誰にもこの事を話していなかった。これからもきっと絶対に誰にも言わないつもりだ。だって2人の約束だから。決して口止めされている訳でわない。ただ、私が一方的にこの約束を2人のものにしたかった。
「はあ?絶対言いませーんっ」
「なんだよ、つまんねえのっ 振られたんだから教えてくれてもいいのにっ」
「うっ、振られたとか言わないで!」
私は笑いながら言ったけど、内心は凄くぼろぼろだった。桐山との約束、桐山は忘れちゃったのかな、私だけ覚えてるなんてなんか馬鹿らしくなってきた。私はもうこの時、桐山に対する思いをここで諦めようと思う。すっごく悲しいけど明日からは普通の友達として。
「じゃあ俺こっち曲がった所だから」
「そうなんだ、じゃあばいばい!」
「おう! また明日なっ」
「うん........。また明日!」