青い目はまだ私を捕らえる。
我に返った私はすかさず目を逸らした。
すると私が握っていた手が握り返される。
「あったかい…」
目を閉じて感じ取るようにその人は強く握った。
それでも全く力は無いし、痛くない。
それもそうだ。
腕に視線をずらせば骨と皮のように細い。
涼あたりが力を入れたら折れてしまうのではないだろうか。
そう思ってしまうほどの細さだった。
そして握ってる逆の右腕には点滴の管が刺されている。
痛々しいその姿に私は眉を寄せた。
正座だったのを座り直して、体育座りに戻る。
俯きがちの顔を覗き込むように私は傾けた。
「寒いんですか…?」
「うん。でも、これが、僕の体温、だから…」
途切れ途切れの言葉は私の質問に答えてくれた。
やっと話してくれたのに対して喜ぶと同時に私はこの人の性別がわかる。
声の低さと、自分を僕と呼んでいるからきっと男性だろう。
外見は細すぎて性別が判断できない。
髪も一般的な男性にしては長いし、前髪に関しては切ってあげたくなるほどだった。
「あの、名前教えて貰えませんか?」
「……ない。名前、無い」
「えっ無い?」
まさかの返答に私は驚く。
年齢的には私よりも少し上に感じるがそこまで生きていても名前が無いとは驚きだ。
かと言って私が名前を付けるわけにもいかない。
とりあえず、口では君とか貴方呼びにしよう。
心の中では……青年?呼びに決めた。
「貴方は何でここに?」
「……」
「あっ答えたく無いのならいいです!無理矢理聞くのは失礼なので…」
「うん…」
「そうだ。私のことは桜って呼んでください」
「桜ちゃん…」
「はい」
青年は私の名前を呼ぶと少し表情を柔らかくした。
なんだか嬉しさが倍になってくる。
ただ名前を呼ばれただけなのに。
次の話題はどうしようか。
そんな事を考えていると部屋のガラスを軽く叩く音がする。
私は音がした方を向くと、お父さんが手招きしていた。
帰ってこいという意味だろう。
「すみません。時間みたいで…」
私はそっと繋がれていた手を離すと青年が小指を控えめに掴んできた。
「帰るの…?」
「は、はい」
「そう…」
「また来ます!その時はもっと面白い話題を用意してくるので!」
「……」
少し震えた声で青年は私に問いかけるので私は思わず約束を交わす。
すると掴まれた小指は離されて、青年の手は床に落ちた。
その後は何も言わずにまた顔を俯ける。
私は思わずまた手を握ろうとしたけど、お父さんの視線を感じて留まった。
「また来ます」
私はそう言って扉へ向かって行く。
扉の前に立つと重い音を鳴らして横に開くと同時に後ろを振り返った。
最初の時と同じ姿勢に戻った青年は全くこっちを見ずに動かなかった。
扉を通ってお父さんの元へ行くと腕を組んで私を待っていた。
後ろには才田さんがファイルを持って立っている。
「ありがとう桜。また1歩進めた。この調子で夏休みの間は頼む」
「う、うん…」
やはり拒否権は無いらしい。
でも私は青年と約束をしたから行かなければならないのは確定している。
するとお父さんは側にあった白衣を着て私の横を通った。
「私はこれからやる事がある。帰りは才田が送ってくれるから安心しなさい。才田、後は頼んだぞ」
「かしこまりました」
そう言うとお父さんはまた別の部屋へと消えて行った。
我に返った私はすかさず目を逸らした。
すると私が握っていた手が握り返される。
「あったかい…」
目を閉じて感じ取るようにその人は強く握った。
それでも全く力は無いし、痛くない。
それもそうだ。
腕に視線をずらせば骨と皮のように細い。
涼あたりが力を入れたら折れてしまうのではないだろうか。
そう思ってしまうほどの細さだった。
そして握ってる逆の右腕には点滴の管が刺されている。
痛々しいその姿に私は眉を寄せた。
正座だったのを座り直して、体育座りに戻る。
俯きがちの顔を覗き込むように私は傾けた。
「寒いんですか…?」
「うん。でも、これが、僕の体温、だから…」
途切れ途切れの言葉は私の質問に答えてくれた。
やっと話してくれたのに対して喜ぶと同時に私はこの人の性別がわかる。
声の低さと、自分を僕と呼んでいるからきっと男性だろう。
外見は細すぎて性別が判断できない。
髪も一般的な男性にしては長いし、前髪に関しては切ってあげたくなるほどだった。
「あの、名前教えて貰えませんか?」
「……ない。名前、無い」
「えっ無い?」
まさかの返答に私は驚く。
年齢的には私よりも少し上に感じるがそこまで生きていても名前が無いとは驚きだ。
かと言って私が名前を付けるわけにもいかない。
とりあえず、口では君とか貴方呼びにしよう。
心の中では……青年?呼びに決めた。
「貴方は何でここに?」
「……」
「あっ答えたく無いのならいいです!無理矢理聞くのは失礼なので…」
「うん…」
「そうだ。私のことは桜って呼んでください」
「桜ちゃん…」
「はい」
青年は私の名前を呼ぶと少し表情を柔らかくした。
なんだか嬉しさが倍になってくる。
ただ名前を呼ばれただけなのに。
次の話題はどうしようか。
そんな事を考えていると部屋のガラスを軽く叩く音がする。
私は音がした方を向くと、お父さんが手招きしていた。
帰ってこいという意味だろう。
「すみません。時間みたいで…」
私はそっと繋がれていた手を離すと青年が小指を控えめに掴んできた。
「帰るの…?」
「は、はい」
「そう…」
「また来ます!その時はもっと面白い話題を用意してくるので!」
「……」
少し震えた声で青年は私に問いかけるので私は思わず約束を交わす。
すると掴まれた小指は離されて、青年の手は床に落ちた。
その後は何も言わずにまた顔を俯ける。
私は思わずまた手を握ろうとしたけど、お父さんの視線を感じて留まった。
「また来ます」
私はそう言って扉へ向かって行く。
扉の前に立つと重い音を鳴らして横に開くと同時に後ろを振り返った。
最初の時と同じ姿勢に戻った青年は全くこっちを見ずに動かなかった。
扉を通ってお父さんの元へ行くと腕を組んで私を待っていた。
後ろには才田さんがファイルを持って立っている。
「ありがとう桜。また1歩進めた。この調子で夏休みの間は頼む」
「う、うん…」
やはり拒否権は無いらしい。
でも私は青年と約束をしたから行かなければならないのは確定している。
するとお父さんは側にあった白衣を着て私の横を通った。
「私はこれからやる事がある。帰りは才田が送ってくれるから安心しなさい。才田、後は頼んだぞ」
「かしこまりました」
そう言うとお父さんはまた別の部屋へと消えて行った。