小さく、でもはっきりとした言葉で桜はそう言った。

俺はそれを否定するように声を出す。



「違う!桜は何も悪くない!」



ここは運動公園だけど周りの人なんてどうでも良い。

今俺の側を通って行った老人が振り返ってこっちを見たけど俺は気にしなかった。



「私も…彼を殺した」

「俺は詳しい事はわからない。でも俺は桜を信じる。信じるから…」



俺は下を向いてまるで目の前にいる桜に頭を下げるような体勢になる。

伝わってくれ。

そう思っても桜の声のトーンは変わらない。



「学校にも行けてないの」

「桜…?」

「小さくて少人数の学校でも、海辺って名乗るだけで冷たい目で見られる。こんな苗字珍しいもん。それにあの人が捕まったから世間では海辺が広まりつつあるし」

「だったら戻って来いよ!俺が守るから!桜の事を悪く言う奴から守るから!」

「もう、戻れない。ごめん」



俺は思わず耳からスマホを離してしまった。

俺の持ち札はもう何もない。

何を言っても桜は来てくれないし、会ってくれないんだ。

わかってしまった桜の想い。

俺の片思いは本当に終わってしまうんだ。

そう思った。

離したスマホから桜の声がまた聞こえる。

聞きたくない事を聞いてしまいそうで怖い。

でも桜の声に耳を傾けたいという思いの方が強かった。



「私の事は忘れて。もう涼とは他人だよ」

「…そんなこと言うなよ」

「私も涼のこと忘れるから」

「やめろよ」

「……そっちがやめてよ…」



桜の言葉が喋るたびに弱くなっていく。

震えも微かに聞き取れた。

俺はスマホを握っている手にギュッと力を込めて、ビビるなと自分を鼓舞する。

今俺が負けてしまったらきっと本当に会えなくなってしまう。

そんなの無理だ。

好きで満たされてしまった気持ちは抑える事は出来ない。



「桜。まず俺の話を聞いて」

「…なに」

「俺はもう桜に惚れすぎてるんだよ。今更忘れろとか、嫌いになれとか出来るわけない。桜が1人で辛いなら、俺だって一緒に罪を背負うよ。まだ何も知らないけどさ。人殺したって、罰を重ねたって、半分持つから」

「何で、そこまで」

「大切だからだよ」



俺がそう言った瞬間に桜は泣いた。

電話越しでもわかる泣き声。

そばにいて背中を摩ってあげられないのが悔しくてたまらない。

もっと力があれば隣にいれるのに。

告白の返事が逆だったら抱きしめてあげれたのに。

でも叶わないならこれから叶わせればいい。

だから俺はずっとメッセージを送り続けたんだ。