食べ進めて行くうちに俺の中で微かな期待が生まれる。

電話をかけてみれば出てくれるのではないかと。

今の時間帯なら学校に行っていたとしても終わる頃だ。

部活さえ入っていなければ、暇してるはず。

俺は最後の1口を放り込んでモグモグとしながら桜のメッセージアカウントを開いた。

そのまま止まる事なく指は通話ボタンを押す。

1コール目、2コール……目に入る前に電話をかける音が消えた。



「えっ」

「しつこいんだけど」

「ちょっ、ちょっと待った!」



スマホの表示画面には通話中と書かれている。

まさか出ると思わなくて俺は慌ててクレープを飲み込んだ。



「なんで!?ずっと既読も返信もしてくれなかったのに!」

「うるさいんだけど…。だって…誰とも話したくなかったから」

「あ……ごめん」

「まぁいいよ。…元気?」

「…元気」

「全然そんな感じじゃないけど」

「元気だよ。桜は?」

「元気ではないかな」



俺は耳にスマホを当てて久しぶりの桜の声に心が躍る。

しかし桜は最後に話した時よりも沈んだ声をしていた。



「大丈夫か…って言われても別に嬉しくないよな」

「そうだね」

「どこに引っ越したの?」

「内緒」

「なんで」

「言ったら例え離島でも涼は来るでしょ?」

「離島なのか?」

「例えだよ。そう聞くという事は行こうとしてたんだ」

「俺は会いたい」

「私は会いたくない」



自分の気持ちを伝えても速攻で断りの返事が返ってきて頭がガクッと下がる。

そんなにキッパリ断らなくても良いじゃないか。

自然と俺は拗ねたような声になって電話越しに桜は小さく笑った。



「もう会えないよ」

「会うよ」

「なんでそこまで私に執着するの?メッセージも放っておいたら50件以上入ってるし」

「良いだろ別に」

「…勘違いだったらごめん。まだ、好きなの…?」

「今回ばかりは諦めが悪いんだ。…好きだよ」



俺は運動公園で何言ってるんだと思う。

電話をしているとわからない人からしたら1人で愛の言葉を呟いているヤバい奴と引かれてしまう。

それでも桜を説得するように俺は伝えた。



「会えるなら今すぐ会いたい。時間も、金もかかっていいから。俺は…そう思ってる」



少し震えそうになる声。

やっぱり弱虫だ。

もっとカッコよく決めれれば心変わりしてくれるかもしれないのに。



「…私は犯罪者だよ」