コンコン



窓を叩く音が鳴る。帰る時間だ。

残り10秒の時。

私は目を開けると青年はジッと見ていた。

きっともう私だけが帰る時間だと思っているのだろう。

違うよ。貴方も帰る時間だよ。

私は両手を青年から離した。

残り8秒。

私は青年の耳元へ口を寄せる。

残り6秒。

口から小さく息を吸い込んだ。

残り4秒。

私は青年に呪いの言葉を吐いた。



「死んで」



残り2秒。

青年は驚いたように私を見る。

次の瞬間、顔を顰め始めた。



「うううう、っ」



私は耳元から口を離して目を瞑る。

この空間には青年が苦しみ、荒い呼吸になる音しか聞こえなかった。

私はそれを聞き続ける。

まだか。まだか。早く終わってくれ。

早く…死んでくれ。

段々と耳に入ってくる声が細くなっていったと思ったら青年の声は聞こえなくなった。

私は目を開けて、目の前に寝ている人を見る。



「これで、私も犯罪者だよ…」



もう青年には聞こえない。

私が目を開けたと同時に閉じたのだから。

青年の左手はベッドから垂れ下がっている。

もしかしたら最後まで私の手を探していたのかもしれない。

でももう終わったのだ。

私は立ち上がって青年の亡骸を見下すように見た。



「貴方の事…たぶん好きだったと思います。友達が言っていた好きの感情が私の中にあったから」



返事は帰って来ない。

私は青年に背を向けて歩き出した。



「せめて、貴方の名前が知りたかったな…」



振り返ることなく、そのまま開きっぱなしの大扉を通る。

青年はもう動かなかった。