科学者ってやっぱり白衣なんだ。

1番最初に思ったのはそれだった。

メガネを付けた人、髪がボサボサの人。

逆に整えている人や中にはスーツではなく私服で作業している人もいた。

合計で10人くらいだろうか。

もしかしたら他の場所にも人が居るかもしれない。

するとお父さんが手を叩いて、他の人達を集めさせると私の腕を引っ張って隣に立たせる。

全員が私を見ていた。

なんだか余計に体が固まってしまって肩に力が入る。



「紹介しよう。今回のプロジェクト対象に関わってくれる私の娘だ。…自己紹介を」

「は、はじめまして!海辺桜です!よろしくお願いします!」

「桜だ。みんなよろしく頼む」

「「「よろしくお願いします」」」



白衣の人達は一斉に頭を下げるので私も勢いよく頭を下げた。

団結力が凄いと感じてしまう。

お父さんは私の背中を軽く叩いて体を起こさせ後、誰かの名前を呼んだ。

お父さんの呼びかけに答えたのは背の高い女性。

この人も白衣を着ている。



「他の者は作業に戻ってくれ」

「「「はい」」」

「さて、この人はこのプロジェクトチームの唯一の女性だ。お前のサポート役として付いてもらう」

「はじめまして。才田凛音(さいだ りんね)と申します。これからプロジェクト関係で何かあったら遠慮なく話してください」

「はじめまして。海辺桜です…」



才田さんはとても綺麗な人だった。

思わず見惚れてしまうほどに大人の女性。

でも唯一の女性ってことは他の白衣の人達は全員男性ということか。

だとしたら才田さんの方が話しやすいかもしれない。

抜擢してくれたお父さんに小さく感謝する。



「それじゃあ行くか」

「何処に?」

「お前がこれから話す相手だ」

「ご案内します」



お父さんと才田さんは私の前を歩く。

チラッと部屋の中を見るとパソコンで作業している人達が5人ほどいた。

その奥にまた扉がある。

ここはパスワードは必要ないようで自動ドアのように横に流れて入れた。

扉を通ればガラス張りの部屋になる。

そしてまた扉が1つあった。

しかし先程の扉とは違い鉄でできている厳重な物。

お父さん達はそこの扉には触れず、横にあるテーブルと椅子に座った。

つられて私も一緒に座る。



「あそこを見ろ」

「え…」



お父さんがガラス張りの窓を指差す。

私はその方向を見ると扉の前では見えなかったものが見えた。  



「人…?」

「そうだ」



真っ白な部屋の中央には体育座りして顔を伏せている人が居た。

大きな部屋の中心で1人ポツンと。

側には点滴があり、管が腕に繋がっていた。



「あの人と話すの?」

「理解が早くて助かる。話せるか?」

「で、でもなんで?あの人何かしたの?」

「お前には関係ない。ただ話をするだけでいい」



お父さんは私の質問を切り捨てると椅子から立ち上がる。

そして顔だけ私を見てこう言った。



「出来るな?桜」



無理なら断っても良いと言ったはず。

それでも私に有無を言わせない目つきは謎の恐怖感が余計に増した。

私は声が出ずに縦に頷いて反応を示す。



「話す内容は何でもいい。それに話は外にいる私達には聞こえないから安心しろ」

「それでは桜様、ご準備が出来次第扉の前へお願い致します」



才田さんも立ってお父さんの後ろに並んだ。

私は手をギュッと握る。

そして椅子から離れると扉の前へと動いていた。

ここで嫌だと言ったらきっと怒られる。

お父さんの力になれるのなら話すしかない。

私が扉の前へ立つと才田さんが「開けます」と言って何かを操作する音が聞こえた。