【完結】君は僕のストーリーテラー

月日が流れるのは当たり前。

それが速く感じるか遅く感じるかはその人次第だ。

人間はその月日の中で成長していく。

良い方向にも、悪い方向にも。

僕の場合、どっちに成長してくれたかな。

良い方向だったら…嬉しい。

その前に僕自身人間かわからないけど。

でもそんな望み通りには行かないよね。

今、あの女の人は何をしているんだろう?

今、あの男女は何をしているんだろう?

白く霞んでいる記憶の中の顔部分は僕には誰だかわからなかった。

でもあの苦しかった日から時々声が聞こえてくるんだ。



『お誕生日おめでとう』

『コスモスだよ。ちょうどこの季節にも咲いてるんじゃないかな』

『そうか。ちゃんと躾されているみたいだ。それじゃあ失礼するよ』

『勿論、条件は従うさ。一方的に借りるのは良くないことだからね』

『君は想像できないほどの膨大な金を対価として払った。君は、ご両親に売られたんだ』

『次起きる時はきっと、嫌なことは忘れてる………』



ほとんどが男の人の声で再生されるけど、僕には何のことかわからなかった。

記憶を辿ろうとしてもモヤモヤと霧がかかって疲れるだけ。

もう、何の言葉か考えるのも辞めてしまった。

今頭の中で考えていることと言えば苦しい感情だけだ。

呼吸がしづらく肺が痛い。

前もがき苦しんだ時よりではないけど、着々と自分が弱っていっているのを感じていた。

そんな僕を見て白衣の人達は初めてベッドを与えてくれて、僕はずっと動くこともなく横になっている。

初めてその人達の優しさに触れた気がした。

そういえば桜ちゃんが最後に来たのはいつだろう。

前は頻繁に顔を合わせていたのに、最近は白衣の人達しか会わない。

桜ちゃんはいつ来てくれるのかな。

海、連れて来られなかったのかな。

僕は別に怒らないし、約束破ったなんて言わないのに。

会いたい。

会って、手を握ってほしい。

あの暖かさは僕には無いものだから。



「ゲホッ、」



次、桜ちゃんがここに来てくれたらどんな表情を見せてくれるかな。

「お久しぶりです」と言って笑うのか。

それとも反対に「ごめんなさい」と言って悲しむのか。

もしかしたら僕の姿に驚くかもしれない。

どちらにせよ、僕は早く、貴方に会いたい…。

そんな願いを込めてまた目を瞑った。