海の最寄り駅に着くと、あの時の思い出が蘇る。
奇跡的に家に帰れたあの日だ。
でも今はそんなことを考えている場合じゃない。
絵の事に集中しなくては。
涼が私の前を歩いて道を案内してくれる。
こう考えると複雑な道をよく通って帰れたなと自分に感心した。
しかしまた私は頭を振りかぶって余計な考え事を消す。
「少しずつ曇ってきてるな…」
「早めに行って早めに帰ろうか」
「それがいい」
私の言葉で2人して歩くスピードを速くする。
さっきまでは明るかった空は雲が多くなってきた。
雨降りまでとは行かないけど、この天気が酷くなれば絵も描けないし、綺麗な写真だって撮れない。
下書きは描けているのだから後は塗るだけ。
でも1番良い状態の景色を見なくては海を連れて来れない。
何としてでも海を青年の元へ連れて来たいのだ。
「涼、走ろう」
「えっ、桜!?」
私は小走りからちゃんと走り出す。
下り坂なのでそこまでスピードを出さなくても速く降りれた。
「俺荷物あるんだけど!?」
「お願い!時間と天気の勝負なの!」
「わかったわかった!」
涼は画材を抱えながら私の少し前を走る。
やっぱり運動部だなと思いながら着いて行った。
息がまた上がってくるが関係ない。
今日だけで筋肉痛になってしまいそうだが関係ない。
約束はちゃんと果たしたいから。
「大丈夫か!」
「平気!そろそろ?」
「ここを真っ直ぐ!」
滑るようなスピードはどんどん加速する。
でも足元には気をつけながら走るからずっと下を向いていた。
私が涼の言葉に顔を上げると一面の海が見える。
堤防付近の階段まで進むと一旦止まって息を整えた。
「ふーっ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だって……」
「顔死にそうだけど」
「大丈夫…!絵を描かなくちゃ…!」
「…そうか。ちょうどそっち側だ。俺達が前座ったところ」
涼の指が指し示す方向を見て私はそこへ向かう。
後ろから涼もついて来た。
横に広がる海を見ながら良い場所を探す。
この天気だからだろうか。お客さんは10人も居なかった。
「桜、急に波が高くなったらヤバいから堤防で描けよ」
「わかった」
私は堤防の上に座って涼から画材を受け取る。
すぐに準備を始めて、画用紙を板の上に貼り付けた。
前の途中だったから絵の具が固まっている。
あらかじめ持って来ていたペットボトルの水で溶かして元に戻した。
私は無言で描き始める。
「……」
「……」
波の音、風が木々を揺らす音。
あの時は耳に入らなかった音がダイレクトに聞こえてくる。
筆を動かせば動かすほど、この絵の世界に溶け込んでしまいそうだった。
涼は黙って絵を見つめたり、遠くを見たりしている。
申し訳ないと心で謝って私は海を時々見ながら自分の海と対話した。
奇跡的に家に帰れたあの日だ。
でも今はそんなことを考えている場合じゃない。
絵の事に集中しなくては。
涼が私の前を歩いて道を案内してくれる。
こう考えると複雑な道をよく通って帰れたなと自分に感心した。
しかしまた私は頭を振りかぶって余計な考え事を消す。
「少しずつ曇ってきてるな…」
「早めに行って早めに帰ろうか」
「それがいい」
私の言葉で2人して歩くスピードを速くする。
さっきまでは明るかった空は雲が多くなってきた。
雨降りまでとは行かないけど、この天気が酷くなれば絵も描けないし、綺麗な写真だって撮れない。
下書きは描けているのだから後は塗るだけ。
でも1番良い状態の景色を見なくては海を連れて来れない。
何としてでも海を青年の元へ連れて来たいのだ。
「涼、走ろう」
「えっ、桜!?」
私は小走りからちゃんと走り出す。
下り坂なのでそこまでスピードを出さなくても速く降りれた。
「俺荷物あるんだけど!?」
「お願い!時間と天気の勝負なの!」
「わかったわかった!」
涼は画材を抱えながら私の少し前を走る。
やっぱり運動部だなと思いながら着いて行った。
息がまた上がってくるが関係ない。
今日だけで筋肉痛になってしまいそうだが関係ない。
約束はちゃんと果たしたいから。
「大丈夫か!」
「平気!そろそろ?」
「ここを真っ直ぐ!」
滑るようなスピードはどんどん加速する。
でも足元には気をつけながら走るからずっと下を向いていた。
私が涼の言葉に顔を上げると一面の海が見える。
堤防付近の階段まで進むと一旦止まって息を整えた。
「ふーっ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だって……」
「顔死にそうだけど」
「大丈夫…!絵を描かなくちゃ…!」
「…そうか。ちょうどそっち側だ。俺達が前座ったところ」
涼の指が指し示す方向を見て私はそこへ向かう。
後ろから涼もついて来た。
横に広がる海を見ながら良い場所を探す。
この天気だからだろうか。お客さんは10人も居なかった。
「桜、急に波が高くなったらヤバいから堤防で描けよ」
「わかった」
私は堤防の上に座って涼から画材を受け取る。
すぐに準備を始めて、画用紙を板の上に貼り付けた。
前の途中だったから絵の具が固まっている。
あらかじめ持って来ていたペットボトルの水で溶かして元に戻した。
私は無言で描き始める。
「……」
「……」
波の音、風が木々を揺らす音。
あの時は耳に入らなかった音がダイレクトに聞こえてくる。
筆を動かせば動かすほど、この絵の世界に溶け込んでしまいそうだった。
涼は黙って絵を見つめたり、遠くを見たりしている。
申し訳ないと心で謝って私は海を時々見ながら自分の海と対話した。