スパゲッティをフォークで絡め取って口に入れれば美味しさが爆発する。

チーズの香りが鼻を纏った。

何も入っていなかった胃袋がメロンソーダとカルボナーラで満たされていく。

昨日お寿司を食べられなかったのは残念だったけど、あの状況で今みたいに食の幸福感は味わえなかったはずだ。

最後にソースをスプーンで掬って私は完食した。



「美味しかったね。このお店はやっぱり当たりだわ」

「本当です。また今度違うメニューでも試してみたいです」

「いいね。その時は誘って」

「はい」



私はメロンソーダを飲んで口を潤すと、微笑んでいた才田さんは真剣な表情になる。

ああ、やっと本題に移ってくれるんだ。

私はメロンソーダを端に置いて才田さんと向き合った。



「これから言うことは桜ちゃんも知っての通りの事だからさ、食事前には話したくなかったの」

「はい…」

「私は一昨日社長にあらかじめ桜ちゃんに真実を話すと言うことを聞いていた」

「才田さんもお父さんの罪を知っていたんですか…?」

「私は動かされていたから全ては知らなかったよ?それに彼の最後の件について聞かされたのも一昨日だし」



最後の件。

安楽死の手段の話だろう。

私は顔を険しくしてしまう。

それでも才田さんは私の目を見て話を続けた。



「他の研究員の人間で、私よりも地位が上の人は全てを知っていたと思う。その人達もきっと社長と同じ罰を科せられるはず」

「そしたら、才田さんは?」

「憶測でしかないけど、社長が言うには下っ端の私はそこまで重くないだろうって。だって言われた事をやらされていただけだから。まぁ科学者は辞めさせられると思うけどね」

「……すみません」

「え?」

「お父さんが、すみません…。大切な人も、仲間も巻き込むなんて…」

「桜ちゃん。貴方が謝る理由なんてないの。謝るのは社長の方だから。それはもうあの人に土下座してもらわなくちゃ私は気が済まないけど」

「……」

「まぁ、私は桜ちゃんを怒りたくて呼び出したわけじゃないから安心して」



才田さんはそこまで言うとアイスコーヒーを飲んだ。

私は少し俯いてしまう。

例え罪が重くなくたって才田さんにも被害が起きるんだ。

1番悪いのはお父さんだけど、何故か私まで申し訳なくなってくる。

科学者を辞めたら才田さんはこれからどうするのだろう。

そう考えてしまうと余計に顔を見れなくなってしまった。



「……桜ちゃん」

「わっ!」



急に顔が上がったと思ったら私は才田さんと目が合った。

頬が才田さんの細長い指で掴まれている。

どうやら無理矢理顔を上げさせられたようだった。



「私の事は気にしなくていいから。自分の事だけを気にして。大人ならこれからどうだってなる。でもまだ社会に出ていない桜ちゃんは私より大変な道を歩くかもしれないの」

「才田さん…」

「それに社長と1番近い人間は桜ちゃんだけ。これから嫌って言っても嫌なことが起きる。だから、他の誰かを心配するなら自分に手を回してあげて?」



私をしっかり見てそう言ってくれた。

でもその瞳は少し揺れている。

目を伏せたくなってしまう思いを掻き消して私は才田さんの目を見つめた。