普通の速度で食べる私に対して、ガツガツと食べる涼。

もっとゆっくり食べれば良いのにと現在、熱々のたこ焼きを頬張り苦しんでいる涼を見て思った。



「あっち〜」

「ジュース飲みなよ」 

「これは後でかき氷だな」

「まだ食べるの!?」

「かき氷なんて水と同じだろ」

「そうかもしれないけどさ…」



やっぱり高校2年生の男子はみんなこんな感じなのだろうか。

異常なまでの食欲に若干引きつつある。



「最後食べろよ」

「涼が食べて。私イカ焼き食べる」

「はいよ」



たこ焼きを差し出してくれたが私は地獄のように熱いたこ焼きを食べれる自信がなかった。

丁重に断って返す。

その代わりこのイカ焼きを食べる。

最後に取っておいたゲソの部分。

涼に食べられるかなと思ったけど、ちゃんと残っていた。

私は端に残ったタレを満遍なくつけて口にすると頬が落ちそうなくらいの幸福感が来る。

人間は濃厚タレをたっぷり付けたゲソを食べるだけで幸せと感じるらしい。今、私がその状態だった。



「ご馳走様。それじゃあお金を…」

「要らないって言っただろ」

「だからさぁ…」



また口喧嘩態勢に入るが、涼は自分が持っていたたこ焼きを箸で持つと私に近づけてくる。



「な、何」

「これを1口で食べたら金もらうよ」

「はぁ!?」



ニヤニヤと私を見ながらたこ焼きを口の前まで持ってくる涼。

こいつ、やる事が小学生だろ…。

別に食べさせてもらうのが恥ずかしいわけじゃない。

相手は涼だから。それでも私は躊躇する。

だってまだ湯気が立っているたこ焼きを1口で頬張るなんて、さっきの涼みたいに苦しむだろう。

最悪の場合口の中火傷する。

しかし今、私の対抗心に火がついてしまった。

ここで食べれば申し訳なさを消す事が出来るし、お金問題は円満に解決だ。

私は覚悟して目の前にあるたこ焼きにかぶりついた。



「あ、あれ?」



私の口は空振りする。

たこ焼きが前から逃げて行ったのだ。

涼の手によって。



「ちょっとどういうこと…」

「流石に地獄だろ。…ほい」



涼は半分に割ったたこ焼きをふーふーして私に向ける。

私は小さくなったものを口に入れてもらうと多少の熱さと膨大な美味しさが広がった。



「半分は俺な」

「…うん」



口をモグモグさせながら私は頷く。

噛んでいて気付いたが、私の方にタコを入れてくれたらしい。

と言うことは今涼が口にしたのはただの焼き。

また私は眉を下げた。



「なんかごめん」

「何がだよ」

「色々としてもらっているし…」

「別にいいよ」

「さっきだって普通なら女性の役目じゃない?」

「ん?何が」

「冷まして食べさせてあげるの」



唇を尖らせていかにも拗ねてます感を出してしまう。

実際は拗ねているのだから間違ってはいないけどなんだか子供っぽいと思われてしまいそうだ。

そんな私を見て涼はクスクスと笑い始めた。



「そんな笑う?」

「ごめん。面白くって」

「何でよ」

「可愛いなって」

「…え?」



初めて涼が私に対して言った言葉に思考と体が停止する。

そんな姿も面白かったのか涼は笑い続けていた。

でも私は笑える状況じゃない。

全てが停止してしまったのだから。

すると涼は持っていた箸とたこ焼きが入っていたパックを置いて、私を見つめた。



「今度は桜がしてよ」

「あ、あの…」

「別に食べさせるのは男でも女でもどっちでも良いじゃん。でもさ、桜がしてくれるのであれば俺は喜んで食べるよ」