海の最寄駅に着いた私達は扉が開いて踏み出すと同時に空気感が変わった気がした。



「海だ…」

「海だね…」



涼も同じ気持ちのようなので勘違いでは無さそう。

潮の香りと言うのか。

とりあえず海という感じだ。

私達にこれを言葉にする語彙力は持っていない。

駅を出て、海までは徒歩で歩く。

涼と小さな日陰を取り合いながら海に近づいていた。



「あっちー」

「飲む?」

「飲む〜」



私は持っていたレジ袋からジュースを取り出して手渡す。

ちゃんとペットボトルのキャップを緩めてあげるとニコッと笑って受け取る涼。

電車を出てからも、私の画材は涼が持っててくれているので少し申し訳ない気持ちになりながらも力持ちの涼に甘えた。



「うめ〜!桜も飲んでいいぞ?」

「うん。でもまだ大丈夫」

「熱中症になるなよ」

「わかってるよ」



私は水分を摂った涼からペットボトルを受け取り、またレジ袋にしまう。

まだ海は建物の奥で見えてない。

日陰に入っているとはいえ、私もちょくちょく飲んだ方がいいな。

この暑さだとやられてしまいそうだ。

私は極力太陽を浴びないように建物の影に隠れる。

既におでこはしっとりしていた。



「そういえば涼は海で何するの?食べる以外で」

「んー、何しよう…」

「泳ぐの?」

「水着は持ってきた」

「準備万端だね」

「桜は泳がねぇの?」

「私は絵を描きにきただけだから」

「ふーん」

「え、私の水着見たかったの?」

「違うわ!」



慌てて大きな声でツッコむ涼に対して私は吹き出すように笑う。

電車ではちゃんと笑えなかったからか、止まらなかった。



「そんなに慌てなくても…ふはっ」

「お前が変なこと言うからだろ!」

「ははっ、ダメだ面白い!流石思春期男子」

「お前だって俺と同い年だろ…」

「大丈夫。私は涼の水着姿見てもなんとも思わないから」

「俺が変態みたいに言うなよ」



笑いが止まらない私と、眉を寄せて私を軽く睨みつける涼。

するとさっきまでは恥ずかしがって怒っていたのに、急に安心したように涼は微笑んだ。



「え?何?」

「なんか朝から変だったから。海行くだけなのに力入ってるし、少し難しい顔してるし。だからやっと笑ったなって思って」

「電車の中でも笑ったけど?」

「今の笑いの方が柔らかい。俺はそっちの方が好きだよ」



そう言うと私の頭に空いている手を乗せて撫でた。

私達は身長差があるから背が高い涼は撫でるなんて容易いこと。

それでもなんだか恥ずかしくなって私は思わず手を振り払う。



「……髪乱れる」

「はいはい。どうせ海行けば風で崩れるのに」

「うるさいなぁ」



サッパリ髪の涼なら関係ない話だ。

同意されないのはわかってる。

口では可愛くない言葉ばかり言い並べているけど、内心は驚きと涼の優しさに触れたせいか戸惑っていた。