「そしたら次は君の時間だ」

「え…」

「しゃ、社長?」



僕と女は男の言葉を聞き返す。

思わず顔を上げてしまった。

男は僕を見下す体勢は変えずに少し近づく。

逃げるように後ろに下がりたいけど、手が震えて力が入らなかった。



「1つだけ君の質問に答えよう。何でも構わない。偽りなく教える事を約束する」

「社長、それはどういう…」

「才田。黙ってろ」

「…かしこまりました」

「君自身、疑問に思ってることはいくつもあるはずだ。それとも何も聞きたくないか?」



僕は男を見る。

1つだけの質問を答えてくれるというのは自分の状況を知るチャンスだ。

それなら何を聞けばいい?

質問だから自分の願いが叶うわけではない。

ここから出してなんて言ってもそれは質問にはならなかった。

僕は今何を聞きたいかを考える。

欲を言えば全部聞きたい。最初から最後まで全てを。

でもそんなこと僕は言えなかった。

ずっと黙っていると女が声を放つ。



「社長、失礼ですが1つだけ。彼はプロジェクトの影響で知的能力が下がりつつあります。もしかしたらちゃんと言葉が出ない可能性も…」

「まぁ待て。直接聞いた方が本人の為だ。…君からの質問はないのか?」

「……ある」



聞きたいことは沢山ある。

両手で数えられないほどの悩みと不安が僕を攻撃する毎日だ。

だから僕は知りたかった。

ここが何処とか今は何日とかを理解したって現状は変わらない。

だからこれから言う質問が僕の心の支えになってほしい。

そう思って僕はジッと男の目を見た。

この人は桜ちゃんのように僕の目線には合わせてくれない。

ずっと見下している。だからだろうか。

本当に真実を言ってくれるように思えた。

桜ちゃんみたいな優しい人だときっと悪い状況だったら誤魔化すか嘘をつく。

僕が知りたいのは、本当の事だ。冷たいこの人なら……。



「僕、…僕を」

「……」

「僕の事を待ってくれている人は、居ますか?」