【完結】君は僕のストーリーテラー

「空、しばらく見てないから…」

「えっ」

「感じてみたかった…」



触ろうとしていたのはそういう理由だったらしい。

しばらくとはどれくらいの間ここに居るのだろう。

ずっと模索しないようにしていたけど、やはり青年はお父さん達に何かをされているのか。

聞きたい。

けれどここは私と青年の2人だけじゃない事を忘れてはいけない。

外に出れば才田さんや研究員の人達がいる。

お父さんは会話は聞こえないからって言ってたけど、嘘のような気がした。

もしお父さん達に逆らったらどうなるのだろう。

考えたくないけど、考えてしまう。

そんな私の様子を気にした青年は私の右手を優しく掴んだ。



「な、何でしょう?」

「…あったかいね」



私の体温は変わらない。

そして青年の体温も変わってない。

冷たかった。

私は右手に乗せてある手を自分の左手で重ねるように暖める。



「貴方は…」

「…うん」

「海を見たことはありますか?」

「……ない」



軽く首を横に振って答える青年。

私は青年の青い目を見るように顔を合わせた。



「私も無いです。だから見たいと思いませんか?」

「でも、僕はここから…」

「私が連れてきます」

「連れて、くる…?」

「はい。海を連れてきます。だから」

「?」

「海を連れて来られたら、貴方の事を教えてください」



ずるいだろう。セコイだろう。

私は必ず海を連れてくる。だから絶対に話を聞ける。

でもこの方法しかなかった。

私の小さな頭脳で考えられるのは、何かと交換する条件しか。

今度は縦に頷く青年。

わかっていた。

お願いはちゃんと聞いてくれる事を。

確信しているのにわざわざ聞くのは性格が悪い。

ごめんねと心で謝りながら私は微笑んだ。



「ありがとうございます」

「うん…」



私は少しだけ重ねた手に力を込める。

これからどうすれば良いのだろうという迷いを添えて。