初めて10分くらいだろうか。
小さい子用の塗り絵はそこまで時間がかかる事は無いけど、細い手と腕でゆっくり描く青年はやっとのこと完成した。
耳から尻尾まで全部が水色だ。
こんなの現実に居たら実験台にされてしまう。
それでも綺麗で可愛い犬に私は見えた。
青年は筆を床にあったパレットに置くとこっちを向いた。
「楽しかった…」
「良かったです!」
「うん….」
ニコッと笑った青年に私はもっと嬉しくなる。
初めて話して3回目で笑顔を見せてくれた。
この事をお父さんに報告してあげたい。
それくらい青年の笑顔には価値がある気がした。
するとパレットに置いてあった筆を青年は私に手渡す。
私が首を傾げて受け取ると青年は小さな声でお願いをしてきた。
「描いてほしい…」
「塗り絵を?」
「うん…」
「でも、私が描いたら貴方が描くページが少なくなっちゃう…」
薄い塗り絵本を選んでしまったので1ページ1ページが貴重だ。
2冊買ったとしても熱中すればすぐに終わってしまう。
青年のために買った本が私の手で染まるのは気が進まない。
けれどせっかく筆を渡してリクエストしてくれたのだ。
描いてはあげたい。
私が頭を悩ませて握っている筆を見ていると、青年は私の肩を指で突っつく。
「この犬、もっと綺麗にしてほしい」
「え?でも十分綺麗ですよ?」
「ううん…。1つの色しか無いから…」
確かに水色オンリーだ。
でもせっかく頑張って塗ったものなのに付け足していいのか。
私は戸惑いながら塗られた犬を見た。
綺麗な水色は丁寧に塗られている。
青年の性格が表れているのだろうか。
私は頷いて塗り絵を下に置くと、新しい色の絵の具を取り出した。
私は少し筆に水を加えて溶かすように混ぜる。
水っぽくなり、筆についたその色を犬の体に塗りつけた。
リズミカルに軽く叩きながら色を薄く染み込ませる。
「……」
「……」
真剣に描く私と真剣に見る青年。
今この空間に音というものはなかった。
1つ出来たらもう1つ。同じように叩いて描く。
力を調節しながらなるべく実物に近くなるように。
誰かの色に自分の色を加えるのは緊張するけど、なんだか楽しい。
相手が青年だからなのか。
最後の筆の動きが終わると私は青年と同じようにパレットの上に筆を置く。
「ど、どうでしょう?」
「…空」
「あっわかりますか!?良かった〜」
水色の犬。
そしてその模様に私は雲を描いた。
白の絵の具を濃くしたり薄くしたりして雲の透明感などを再現する。
風景画で雲は何度も描いてきたから腕の心配は無かったけど、青年が雲とわかってくれるかに不安があった。
でも青年は間違える事なく私が描きたかった事を言ってくれる。
青年が描いた空と私が描いた雲。
それが犬の体に表れて、まるで体の中に空があるようだった。
「…凄い」
「貴方が描いてくれた空が綺麗だから私も上手く濡れました。まさか犬がこんなに芸術的になるなんて」
「うん…」
見惚れてくれているのか。
青年は私の顔を見ずに本の中の空を見ている。
それに手を伸ばした青年の手を私は慌てて掴んだ。
「?」
「まだ乾いてないので汚れちゃいますよ!少し時間が経ってから触った方がいいです」
「そっか…」
残念そうな顔に私は申し訳なくなるが、汚れてしまうのは大変だ。
この空間には水道なんてない。
その前に何も無い。
汚れたら白衣の人達に手伝って貰うはずだ。
だったら止めておいた方がいい。
ただでさえ忙しそうな人達なのに汚れを落とすだけで手間を煩わせてしまう。
私は細い腕をそっと離すと、青年の手は太ももの上に乗った。
小さい子用の塗り絵はそこまで時間がかかる事は無いけど、細い手と腕でゆっくり描く青年はやっとのこと完成した。
耳から尻尾まで全部が水色だ。
こんなの現実に居たら実験台にされてしまう。
それでも綺麗で可愛い犬に私は見えた。
青年は筆を床にあったパレットに置くとこっちを向いた。
「楽しかった…」
「良かったです!」
「うん….」
ニコッと笑った青年に私はもっと嬉しくなる。
初めて話して3回目で笑顔を見せてくれた。
この事をお父さんに報告してあげたい。
それくらい青年の笑顔には価値がある気がした。
するとパレットに置いてあった筆を青年は私に手渡す。
私が首を傾げて受け取ると青年は小さな声でお願いをしてきた。
「描いてほしい…」
「塗り絵を?」
「うん…」
「でも、私が描いたら貴方が描くページが少なくなっちゃう…」
薄い塗り絵本を選んでしまったので1ページ1ページが貴重だ。
2冊買ったとしても熱中すればすぐに終わってしまう。
青年のために買った本が私の手で染まるのは気が進まない。
けれどせっかく筆を渡してリクエストしてくれたのだ。
描いてはあげたい。
私が頭を悩ませて握っている筆を見ていると、青年は私の肩を指で突っつく。
「この犬、もっと綺麗にしてほしい」
「え?でも十分綺麗ですよ?」
「ううん…。1つの色しか無いから…」
確かに水色オンリーだ。
でもせっかく頑張って塗ったものなのに付け足していいのか。
私は戸惑いながら塗られた犬を見た。
綺麗な水色は丁寧に塗られている。
青年の性格が表れているのだろうか。
私は頷いて塗り絵を下に置くと、新しい色の絵の具を取り出した。
私は少し筆に水を加えて溶かすように混ぜる。
水っぽくなり、筆についたその色を犬の体に塗りつけた。
リズミカルに軽く叩きながら色を薄く染み込ませる。
「……」
「……」
真剣に描く私と真剣に見る青年。
今この空間に音というものはなかった。
1つ出来たらもう1つ。同じように叩いて描く。
力を調節しながらなるべく実物に近くなるように。
誰かの色に自分の色を加えるのは緊張するけど、なんだか楽しい。
相手が青年だからなのか。
最後の筆の動きが終わると私は青年と同じようにパレットの上に筆を置く。
「ど、どうでしょう?」
「…空」
「あっわかりますか!?良かった〜」
水色の犬。
そしてその模様に私は雲を描いた。
白の絵の具を濃くしたり薄くしたりして雲の透明感などを再現する。
風景画で雲は何度も描いてきたから腕の心配は無かったけど、青年が雲とわかってくれるかに不安があった。
でも青年は間違える事なく私が描きたかった事を言ってくれる。
青年が描いた空と私が描いた雲。
それが犬の体に表れて、まるで体の中に空があるようだった。
「…凄い」
「貴方が描いてくれた空が綺麗だから私も上手く濡れました。まさか犬がこんなに芸術的になるなんて」
「うん…」
見惚れてくれているのか。
青年は私の顔を見ずに本の中の空を見ている。
それに手を伸ばした青年の手を私は慌てて掴んだ。
「?」
「まだ乾いてないので汚れちゃいますよ!少し時間が経ってから触った方がいいです」
「そっか…」
残念そうな顔に私は申し訳なくなるが、汚れてしまうのは大変だ。
この空間には水道なんてない。
その前に何も無い。
汚れたら白衣の人達に手伝って貰うはずだ。
だったら止めておいた方がいい。
ただでさえ忙しそうな人達なのに汚れを落とすだけで手間を煩わせてしまう。
私は細い腕をそっと離すと、青年の手は太ももの上に乗った。