「任せてください」



塗り絵の存在を忘れて私は何も描かれていない大きめのメモ帳を取り出すと、鉛筆を持って描き始める。

青年が持っている図鑑を時々見ながら。

モフモフ感を出すために鉛筆を動かすと青年視線を感じる。

興味津々で見てくれていて私も描きがいがあった。

気合を入れて描くとすぐに出来上がり、私は前と同じようにメモ帳を破って青年に渡すと、両手で大事そうに受け取ってくれた。



「可愛い…」

「意外と上手く描けました。ポイントはクリクリの目です」

「うん…」



青年は自分の目の前に紙を持ってきてジッと見つめると図鑑の上に乗せる。

そしてうざきを指でなぞるように動かした。

尻尾を通って耳へ到達する。

丸くなっている背中を通ればうさぎの出来上がり。



「こうすると、楽しい…」

「あっ、そうだ」



やっと塗り絵を思い出して私はバッグから1冊出す。

表紙を見せるように持ってくると青年の目は輝いた。



「ぬりえ…」

「はい!私、絵の具持ってきたんです。良ければ一緒にやりませんか?」

「うん」



頷いてくれた青年に塗り絵の本を渡して、色付けたい絵を探してもらう。

その間に私はパレットを出して絵の具の準備を始めた。



「どうでしょう?塗りたいのありますか?」

「…犬があった」

「それじゃあ犬を塗りましょうか」



先程、私が描いたうさぎよりもクリクリの目をしている犬のページを開く青年。

私はペットボトルの水で少し濡らした筆を青年に手渡した。



「何の色が良いですか?」

「色…」

「犬って色んな模様とか、色があるから自由で良いと思います。普通じゃない色だって芸術的になって素敵なので。真っ黒でも、水玉模様でも、紫色でも構いませんよ」

「……」



私はあるだけの絵の具を床に並べてどんな色があるかを見せる。

青年が手を伸ばした色は水色だった。

水色の犬なんているだろうか。

いや、何でも良いと言ったのは私だ。

青年水色の絵の具を私に預ける。

私はパレットにまずは少量の絵の具を出した。



「このままの色が良いですか?それとも濃くします?薄めます?」

「え?」

「えっと、濃くすると……こんな感じ。薄めると…こうなります」



私は絵の具を混ぜ合わせたり、水を足したりして色を変えさせる。

その瞬間を1秒も逸らさずに青年は見ていた。

私も絵の具の色を徐々に変える瞬間が楽しい。

まるで実験みたいで。

持っているパレットを青年に近づけて説明する。



「好きな色を取ってください。あ、勿論筆で。それをこの塗り絵の隙間に塗っていけば完成です」

「うん…」



私の言葉通りに青年はパレットに筆をつける。

控えめに絵の具を取ると、塗り絵の犬に線を描いた。



「綺麗な色になって良かった…」



青年は続けて犬の体に線を引くように筆を動かす。

染まっていく犬の姿はまるで真っ青な空のようだった。

夢中で染める青年はどこか楽しそうに感じる。

私はその顔を見れて満足だ。

塗り絵を買おうと思ってくれてありがとうと、当時の自分を褒めてあげた。