暖かい感触がまだ残っている。

手をグーとパーにして動かしてもその感触は消えない。

なんだか気持ち悪いなと思ってしまった。

また開けて閉じてを繰り返していると、重い扉が音を立てる。

白衣を着た男が1つの袋を持って僕の近くにやってきた。



「点滴を交換する」

「……」



受け応えをしないのは当たり前だ。

僕はこの人達が嫌いだから。

でも僕が返事をしなくたってこの人達は動く。

拒否権はない。

応えても、無言でも全て言いなりなんだ。

僕はまた下を向いて膝に顔を埋める。

男は点滴をいじっていた。

僕とこの人達に会話なんて無い。

だから今日、何年振りかに会話をした。

最初に出た声がガラガラだったのを思い出す。

言葉も途切れ途切れになってしまった。

それでも口から言葉を出した後はなんだかスッキリしている。



『また来ます』



今日僕に話しかけた女の子、桜ちゃんの言葉。

高校生2年生。

僕よりはたぶん下だけど何歳離れているかはわからない。

その前に僕の年齢はいくつなのだろう。

けれどそれを聞いたところで何になる?

僕を救ってくれるわけじゃない。

もしかしたら思っていたより月日が経っていて絶望するかもしれない。

だったら最初から聞かないほうが僕のためだ。

僕は目を瞑る。

扉が閉じる音がした。

もう点滴は変え終わったらしい。

チラッと首を動かすと、点滴は満タンになっていた。

僕の栄養源はこの点滴だ。

食事なんてしない。

最後に食べたのはいつだっけ?

最後に食べたのは何だっけ?

思い出そうとしてもモヤがかかって何も見えない。

僕はまた目を閉じて時間が経つのを待った。