「あ、あの」

「ん?何?」

「才田さんってこのプロジェクトでは女性1人だけなんですよね?不安にならないんですか?」

「不安だらけだよ。だってみんなお堅い人達だから。何で私が抜擢されたかわからないけど……でも結果的に桜ちゃんと会えたからOKかな」



何か会話をしようと咄嗟に出た言葉に嫌な顔せず答えてくれる。

本当にお姉さんみたいだった。



「私も昨日の夜お父さんに頼まれて連れて来られたけど、才田さんがサポート役で良かったです。多分次からは緊張なく研究室に行けると思います」

「……やばい」

「え?」

「良い子すぎない?本当に社長の娘さん?」

「お父さんって普段どんな感じなんですか…?」

「無表情で怖い人」

「なんかわかります」



私はお父さんの顔を思い浮かべる。

家でだって無表情ならば職場だって無表情だろうな。

それに怖い人って言うのもなんとなくわかる。

まさに研究室で実感したから。

怒られるのは小さい時で終わったけど、久しぶりにお父さんを怖いと思った。

なぜあんな感情が出てしまったのだろう。

私はサンドイッチを頬張りながら出来事を振り返った。



「まぁ腕は凄く良い人だからね。発想も科学者らしくポンポン出てくるし」

「今回のプロジェクトってお父さんが始めたんですか?」

「そうだね。上の人達と話し合ってだと思うけど、最初は社長からじゃないかな?」



そしたらあの青年は何なのだろう。

プロジェクトって人体実験なのか。

私はお父さんの考えがわからなくてサンドイッチを持つ手に力を込める。

そんな私の心情を感じ取ったのか、才田さんは一言だけ私に言った。



「難しいことは大人に任せればいい」



サンドイッチに挟まっていたレタスが1枚皿に落ちる。

私は慌ててレタスを取って食べた。

才田さんはアイスコーヒーにシロップを追加してかき混ぜている。

この様子ではプロジェクトについては何も教えてくれないようだ。

大人…。

私はまだ子供。

高校生なのだから普通の事。

でも今、私の感情はなんだかモヤモヤとしていた。



「ここのサンドイッチ美味しいね」

「はい。凄く美味しいです」



それは自分でもわからない。

今唯一わかるのはこのサンドイッチが美味しいことだけだった。