「す、好きです。付き合ってください・・・!」

中学の卒業式で初めてした告白。
噛んでしまったことから恥ずかしくて真っ直ぐ見れない僕は俯いて、手だけを前に差し出す。

「・・・・うん、知ってたよ。けどごめんなさい、貴方とは付き合えません」

知ってた、という言葉に思わず顔をあげる。
間近で見た彼女は遠くから見つめるよりも何倍も可愛かった。

彼女は自分で断ったはずなのになぜか困ったような顔をしている。

いつも、困った顔をしている彼女。

初めて話した時も困った顔をしていた。


「貴女が好きです。どうか付き合ってください」

高校の卒業式。二度目の告白。中学の時から片思いしている彼女に二度目の告白をした。

「・・・・ごめんなさい。貴方とは付き合えません」

前回と同じ言葉。
せめて高校は、と成績優秀な彼女と同じ高校に入るため、努力してなんとか同じ高校に入学を果たした。

でも彼女と話せるのはこれで最後。大学まで同じというわけにはいかないから。

「分かりました。でも最後にひとつだけ。僕に、希望を与えてくれてありがとうございました。・・・・さようなら」
「・・・・・」

僕は貴女がくれた希望があるから頑張れたんです。


生まれつき顔に大きな痣を持って生まれた僕は周りに気味悪がられて過ごしてきた。それは中学に入っても変わらなかった。

顔に痣がある以外ほかの人となにも変わらないのに、異質な存在として排除される。
このまま気味悪がられて一生を過ごすのかと人生に希望が持てなかったとき、彼女が現れた。

彼女は、顔にある僕の痣のことを全く気にしなかった。

授業を抜け出して毎回屋上で過ごしていた僕に初めて話しかけてくれた彼女と会話を重ねるにつれて、彼女は僕の希望になった。

他愛のない話だけど彼女と屋上で過ごす時間はとても楽しかった。

だから僕が、彼女とこれからも一緒に過ごしたいと思うようになったのは必然のように思う。
彼女は僕にとって、真っ暗な暗闇を照らす月のような存在だった。


貴女のことが好きでした。貴女にはそのつもりがなかったとしても、僕に希望を与えてくれてありがとうございました。

もう一度そう心の中で呟いたとき、ヒューと一際強い風が吹いた。

手に持っていた高校最後の修学旅行で撮影した写真が飛ばされ、思わず後ろを向いて掴もうとする。

その時ちらっと見えたのは、反対方向に歩いていた彼女が同じく後ろを振り返って困ったような顔で微笑んでいる姿だった。

僕の思いが風に乗って伝わったのだろうか。
そうだといいなと願いながら僕は再び前を向いて歩き出す。

なぜ、彼女がいつも困ったような顔をしているのかはわからない。

僕は彼女について知らないことがほとんどだ。
でも彼女は僕に希望をくれた。

たとえこれからの未来に彼女がいなくとも、僕は彼女がくれた希望を胸に歩いていく。

前の僕とはもうとっくに決別したのだから。

だから。その希望に恥じない生き方をしよう。