「なぁ、ミソラってどこに住んでるんだ?」
「私は東の隣町に住んでたけど、アンチに特定されちゃってね。お父さんとお母さんを巻き込みたくないから新しく辺境に土地を買ったんだけど、本当に一緒に住んでくれるの?」
「当たり前だろ。あと、まだ役所に籍入れてねぇだろ。」
「そう言えばそうだったね。じゃあ、書きに行く?婚姻届。」
「こ、婚姻届なんか書かなくてもいずれ親父が公表するだろ。だから書きに行かなくても…」
「私たち、夫婦になるんだからさ、その記念のつもりで。どうする?」
「し、しゃぁねぇな。まあ、俺がミソラを助けたからだし、俺も、その、せ、責任を取ればいいんだろ?」
「いいの?ありがとう。これからもこうやって責任取り合っていこうね。」
「ああ、望むところだ。」

「何だか面白かったなぁ。」
「ひ、人が顔赤くするのがそんなに可笑(おか)しいか?」
「いやぁ、いつもカッコつけてばっかのゼパル様があんなに恥ずかしがるとは思ってなかったから。」
「俺だけ意識してるからそう見えるんだろ。」
「まぁ、そうかも知れないね。あとゼパル様、荷造りはできてる?」
「一応、あとはその土地に運ぶだけ…、あれ?土地?家はどうした?」
「家はまだ建ってないよ。」
「家ないのに荷物運んでどうするんだよ。」
「建てるんだよ。」
「え?建てる?それはいくら何でも…」
「じゃあ、まず『空間転移(テレポート)』。」

「ここは?」
「私が買った土地。海が見える崖に家を建てたいと思ってたんだけど…。」
「家って、建てる為の材料とかどうすんだよ?」
「要らないよ。」
「要らない?」
「古代魔法を使うんだよ。『粒子よ 我が願いに応じ 変化 転移 復元 創作されよ 粒子故創造(クリエイション)』」
「古代魔法⁉どうやったら古代魔法の復元なんか…」
「古代魔法は、普通の人間の魔力最大貯蔵量をカンストすると創造魔法の上位互換としてどんどん使えるようになるんだよ。」
「すげぇ。古代魔法があるだけでこんな家が作れるのか。」
「ちょっと大きく造っちゃったけど。荷物、持ってっくる?」
「でも、そんな簡単に持ってこれるとは…」
「『空間転移(テレポート)』。」

「おや、ミソラ殿。どうなさいましたか?」
「ゼパル様の荷物を取りに来ました。」
「ですが、いくらミソラ殿でもあの量は難しいかと…。」
「え?こんなに少ないんでえすか?」
「あの…、その量ではいけませんでしたか?」
「いや、想像してたより少ない、って話ですよ。」
「まさか、この量をお1人で?」
「はい、そうですが。」
「無茶をなさらずに。」
「無茶はしていませんですよ。特に丁重に扱わなきゃいけない物って入ってませんよね?」
「その筈ですが。」
「ありがとうございます。『空間転移(テレポート)』。」
「え?」

「はい、荷物持ってっきたよ。」
「ミソラ、もう一回確認していいか?」
「何?」
「ミソラは俺のことをどう思ってる?」
「え?そうだな…、強くて優しい私の王子様、的な感じかな。」
「そうか、よかった。」
「どうしたの?」
「いや…、なんか俺がずっとミソラの足引っ張ってるような感じがしてな…。」
「そんな事ないよ。それにお互い好きにさせた責任取るんでしょ?だから私はゼパル様がそばにいればそれでいいよ。」
「そ、そうか。と、とりあえず荷物を運び込むぞ。」
「あ、誤魔化しても無駄だよぉ~。」

「家具の配置も終わったし、そろそろ仕事の方を始めるかな。」
「待ってくれ。その前に夕食は食べないのか?」
「もしかしてゼパル様、お腹空いてる?」
「ま、まぁ、そうだ。」
「それなら作ってあげるよ。『粒子故創造(クリエイション)』。」
「待て!1つお願いがある。食事だけは粒子故創造(クリエイション)を使わないでくれ。」
「何で?」
「お、俺の夢の1つだったんだ。いつか結婚したら相手の手料理を食べるのが。」
「分かった、そこまで言うなら。」

「やっぱりこうして手作りしてもらう方がおいしいな。」
「そ、そういう事言ってくれるなら、これからも手作りしようかな。」
「ああ、頼むぞ。」

「さて、空腹は満たしたし、そろそろ仕事始めようか。」
「なぁ、この屋敷って、設計したのミソラだよな?」
「そうだけど。何かあった?」
「風呂場を大浴場にしたのもか?」
「そうだよ。」
「じ、実は親父の屋敷はこの辺りの貴族の屋敷の中で1番浴場が狭かったんだ。けど、この屋敷の浴場のおかげで俺の惨めな思いが一つ晴れたぜ。」
「喜んでもらえたなら何よりだよ。そうだ、一緒に入る?」
「え⁉ま、まだ交際兼結婚1日目だぞ⁉そんなことしていいのか?」
「世の中のリア充は結婚前には体験してるよ、こんなこと。」
「こんなこと⁉一体何がどうしたらそんなに余裕で?」
「細かい事は気にしないの。で、一緒に入る?入らない?」
「そ、それなら…、入らさせてください。」
「そこまで固い言い方しなくてもいいよ。」

「なぁミソラ。その、まだお互い知り合ったばっかだから、さすがにタオルくらいはするよな?」
「そうだなぁ。した方がいいかもだけど、私、ゼパル様にもっと愛してほしいから…」
「でも、本気で愛することと欲に任せて蹂躙することでは全く感情が違う。だから、それは間違ってんだよ。」
「そっか。なら、せめて聞いて欲しいことがあるな。」
「また同じようなことは言い出さないよな?」

「ゼパル様。今、どういう気持ち?」
「こ、これが愛されてるってことかは分かんないけど、なんとなく…、恥ずいというか…。」
「でも、2人きりの時くらいいいでしょ?」
「ま、まぁその、み、ミソラみたいな、び、美少女に抱かれながら風呂に入れる男も少ないだろうし、ま、まぁたまにはいいのかもな。」
「褒め上手め。ご褒美だよ。」
「え?ちょっ…」

「そ、その、ごめんね。ちょっとだけゼパル様への思いが抑えきれなくなっちゃって。」
「まさか濃厚なキスなんてモンで死にかけるとはな。そんなに嬉しかったのか?」
「うん。嬉しかったし、あんなに顔を赤くしながら褒めてくるなんて恥ずかしい攻撃は恥ずかしくさせれるような攻撃で返さないとね。」
「そ、それより俺に小説家のことを教えてくれるんだろ?」
「そうだったね。じゃあ、まずは自由に文を書いてみて。」

「な、なんとか書けた…。」
「えっと、400字詰め2618枚?この量を一夜で?」
「ああ、そうだ。」
「内容は?」
「俺とミソラの冒険譚だ。」
「え?どれどれ…。———ふふっ。」
「どうした?何か間違ってる箇所でもあったか?」
「いやぁ、これを読めたおかげでゼパル様がどれだけ私を求めてるかが分かったよ。」
「どういうことだ?」
「もしかして、自分で書いた内容忘れちゃった?ほら、書いてあるじゃん。私とゼパル様が抱き合いながら寝るシーンとか、窮地をギリギリで駆け抜けて2人で喜びのあまり…」
「お、俺はそんな内容書いた覚えがないぞ。あと、内容はともかく文の構成とかは大丈夫か?俺も長文は初めてだから感覚でしか書けてねぇけど。」
「うん。文の構成とか表現技法とかは問題ないよ。さっそく、編集長さんのとっころに持っていこう。」

「は、初めまして。宮廷騎士団団長ゼパル・トゥカビリオです。」
「私はミソラの編集担当だ。よろしくな、ゼパル。じゃあアンタの作品見せてもらうよ。」

「ゼパル。アンタの作品も面白いね。やっぱアンタら2人はお似合いだったな。2人とも恥ずかしくなるような内容で。」
「へ、編集長⁉それは褒め言葉なのか?」
「もちろんそうだとも。アタシはアンタらを担当としてだけじゃなく、1組の夫婦としても応援してるからな。」
「そ、そうですか。ありがとうございます。」
「それじゃあ、こいつは出版するって形でいいんだな?出版しても、ミソラのような結果にあるとは思うなよ。」
「分かってますよ。」

~1週間後~
「まさか俺の作品まで売れるとはな。」
「夫婦そろって人気作家に…。」

「また調子に乗ってるんだな、【魔女】、【斬魔】。」
「また殺されにきたの?」
「ミソラの前でその呼び方をするな。」
「また前みたいに勝てるとでも思ってんの?俺、神具持ってるから。」
「そんな冗談で俺らが怯むとでも思ったか?」
「いいさ。次に決戦場で戦った時にはそんな口が叩けないようにしてやる。」
「どういうことか知らんが、望むところだ。」
「私たちを怒らせるとどうんるか教えてあげるね。」
「そう来なくっちゃな。」

続く