あぁ、誰だったっけ?私を助けてくれた人。あの時にしっかり顔を見たり、名前を聞いたりしておくべきだったな…。今更思い出せるわけもないし。
「大丈夫か、ミソラ。」
「今は大丈夫です。それより、すいません。私を事務所に庇ったりしてよかったんですか?」
「問題ないよ。アタシは若い頃、対人戦は負けたことねぇからな。」
「編集長さん、もしかして若い頃は冒険者だったんですか?なら、どうして小説の編集の仕事に?」
「本当は若い頃からこの仕事やる筈だったよ。でも、遠い国の連中に拉致られてな。」
「そうだったんですか。それで冒険者になったんですか?」
「まぁ、色々あって冒険者になった訳だ。なぁ、お前を助けたヤツの顔はまだ思い出せないんか?」
「はい。本当は思い出したいんですけどね、なんか、こう、脈拍が速くなるといいますか…。」
「そりゃあ恋だな。ミソラ、今まで同じような事は感じたことあるか?」
「ない…、です。」
「そうか。この年で初恋か。まぁ、縁があるといいな。」
「はい。」
「すみません。ここはミソラ・グリークさんの事務所で合ってますか?」
「ああ、そうだが、どうかしたか?宮廷の人間だろ?」
「ミソラ・グリークさん、あなたには今すぐ国王陛下のところに出頭してもらいます。」
「え?どういうことですか?」
「詳しい内容は、国王陛下から直々にご説明なさるそうです。」
「そ、そうですか。」
「ここが…、国王のお城ですか?」
「もしかしてですが、宮廷は初めてですか?」
「はい。そもそもあまりこっちの方に来る機会もあまりなかったので。」
「なら、ぜひ王都の魅力を味わってください。」
私の家は郊外にあって、ここは王都。市場以外の雰囲気は私の町とまるで別で、とても華やかだ。でも、なんで国王が私を…?まさか、国王まで私の命を…。いやいや、それだけは考えられない。とすると、…他に心当たりはない
か。
「来客のお通りだ!」
「ど、どうも。初めまして、国王様。ご存じかもしれませんが、私はミソラ・グリークです。ところで、私を召喚なさったご用件は如何なものでしょうか?」
「先日、郊外の決闘場の騒ぎでお主を助けた青年を覚えているか?」
「えっと…、誰か男性に助けられた覚えはあるんですけど、顔が思い出せなくて…。実は、この場で言う事ではないかも知れませんが、私、その男性に恋をしてしまったみたいで…。」
「聞いたか、我が息子よ。お前の望んだ以上の結果だったようだな。」
「え?ちょ、ちょっとすいません。それどういう意味ですか⁉」
「その…、お主を助けた男は我の四男でな。ほら、隠れてないで顔を合わせたらどうだ?」
「よ、よう。お前にとっちゃ初めましてだろうが、お前は俺の心を奪った。責任取れよ…。」
「あっ…。お、思い出しました、全部!あなたは、決闘場で私を助けてくれた人…。」
「実はな、こやつは郊外の決闘場がよく人同士のいざこざの解決に使われるのを見に行っていてな。しかし、今までも未知数と行っているが、今回のように怪我人の治療をしたり、悪党を断罪したこともない。だから理由を聞くと、お主に惚れたからと申すのだ。だからお主はここに召喚された訳だ。こやつは、国政に一切関わらず、宮廷騎士団団長としての人生を歩んできた。だから、我はこやつを平民であるうお主と結婚させてもよい、と考えたわけだ。」
「おい親父。二度とアイツを平民なんて呼ぶな。特に、俺とアイツの結婚を認めているならな。」
「あの、ゼパルさんでしたっけ?その…、恥ずかしながら申し上げさせてもらいます。私との結婚を考えてくださっているのであれば、私のことを名前で呼んで頂けませんか?さっきも聞いたでしょうが、私はあなたのことが好きなんです。」
「お、親父の前で恥ずかしくなるようなことを言うな、み、ミソラ。」
「名前で呼んで頂き嬉しいです。旦那様。」
「まっ、まだ入籍すらしてないのにその呼び方はやめろ!」
「フフフ。ミソラ嬢よ、お主のおかげでなかなか見られないゼパルの一面を多く見られることができた。これからも末永くゼパルとともに歩んでくれ。歓迎するよ。」
「こちらこそよろしくお願いします、義父様。」
「か、勝手に話進めんなよ、親父もミソラも!」
「旦那様、さっき、私に好きになった責任を取れ、と仰いましたね?もちろん、全力で責任を取らせて頂きます。これも私の綴った物語ですから。」
「わ、分かったから旦那様呼びはやめろ!」
「じゃあ、ゼパル様でよろしいですか?」
「あぁ、もうそれでいい!」
「それでは、結婚後はどう呼べばいいですか?結婚が前提なんですよね?」
「そ、そんなこと今考える話じゃねぇだろ。とりあえず、あとで話がある。城の裏まで来い。」
「はい、ゼパル様。ならば、国王様、もうそろそろよろしいでしょうか?」
「ああ、もう何も言うことはない。ゼパルよ、ミソラに付いて行って暮らすか、ミソラにこの城に住んでもらうか、どちらがいい?選べ。」
「お、俺は断然ミソラと2人暮らしの方がいいんだが…。」
「それならぜひ私と2人暮らしをしましょう。」
「では、我は末永くその関係が続くことを願う。」
確か城の裏に来い、って言ってたっけ?何だろう?校舎裏で告白ならぬ城の裏で告白?
「話って何?ゼパル様?」
「み、ミソラ。俺はお前が好きで助けたのは本当だ。でも、結婚したい理由は他にもある。」
「発育が人並みだから?」
「ち、違う!まず、この話をするに当たって、しとかなきゃいかん話が幾つかある。」
「例えば?」
「俺の名前の由来と、俺がどうして国政に参加せず宮廷騎士団団長になったのか、だ。」
「名前の由来?」
「ミソラ、あの時古代魔法で七十二柱を召喚していただろ?」
「それがどうかした?」
「知ってるだろうがゼパルってのは七十二柱の1柱で、『霊能ノ十六 ゼパル』で召喚できるんだが。…実は俺、生まれつき体が弱かったらしくて。強くて女にモテるように、ってゼパルと契約して憑依させたらしいんだ。」
「それであの強さになったの?」
「まあな。それで幼少期には既に当時の団長に勝てたし、悪魔と契約してるヤツがいるととにかく聖職者の連中が五月蠅いんだ。だから、俺は国政に関わらず、騎士団団長をやってるわけだ。」
「それで、私と結婚したいもう1つの理由は?」
「俺はずっとゼパルとの契約を断つ方法を探していた。でも、古代魔法を使えるミソラならきっと俺の憑依を解けると思って…」
「でも、そんなことをしたらゼパル様はどうなるの?体が弱くて憑依させられてるんだよね?契約を解いたらゼパル様が死んじゃう…。それだけは絶対だめ…。」
「…あ、あの決戦の時は強気だったくせに、か、可愛いところあんじゃん。」
「…そりゃあ私もゼパル様も年頃だよ?お互い惚れるところが少ないってわけでは、ね。」
「あと、ミソラが俺の事を好きになったのは、俺の中のゼパルの影響だ。」
「何で?」
「俺の中の悪魔ゼパルは、女の愛情を燃え上がらせ、その男女を結ばせるかわりに女性が不妊になる力を持っている。だから、俺とミソラが結ばれても子供はできない。これは知っておいてくれ。」
「でもゼパル様。それはゼパル様の綴った物語だから、私の綴った物語と混ざって内容は変えられるんじゃないかな?私も、ゼパル様が元に戻らない可能性に覚悟ができたら、その時は契約から解放してあげるね。」
「でも、俺はもう少し、いや、できれば余程のことがない限りミソラと幸せでいたい。だから、俺はまだこの2つの呪いにかかっていたい。」
「2つの?どうして2つ?」
「い、言えねぇよ!」
「ふふっ。ゼパル様、顔真っ赤だよ?」
「ん、んなもん…。ミソラ、俺に3つ目の呪いをかけてくれ。」
「3つ目の呪いって?」
「俺に、一生ミソラを愛し続ける運命の呪いをかけてくれ。」
「それって…?あっ、なるほどね。いいよ。じゃ、少しだけしゃがんで。」
「これくれいの高さでいいか?」
「いいよ。じゃあ、いくね。」
「陛下!陛下はおられますか⁉」
「どうした?要件を申せ。」
「城塞の裏で、2人の初接吻を確認しました。」
「そうか。ゼパルも大人になったな。2人ともあの強さなら、孫をつくって欲しかったなぁ。」
「陛下、ゼパル様は…。」
「分かっとる。分かっとるよ。それでも諦めきれんのだ。」
「ミソラ殿に賭けましょう。彼女なら、あの契約を解くことができるやもしれません。」
「そうだな。」
「あと、俺にミソラの仕事のことを教えて欲しい。」
「え?急にどうしたの?」
「俺もミソラみたいになってみたい。」
「この道は苦労するよ。それでも?」
「それでも、だ。」
「分かったよ。2人で夫婦作家を目指そう。」
なんか、想像よりも楽しいスローライフになりそうだな。
続く
「大丈夫か、ミソラ。」
「今は大丈夫です。それより、すいません。私を事務所に庇ったりしてよかったんですか?」
「問題ないよ。アタシは若い頃、対人戦は負けたことねぇからな。」
「編集長さん、もしかして若い頃は冒険者だったんですか?なら、どうして小説の編集の仕事に?」
「本当は若い頃からこの仕事やる筈だったよ。でも、遠い国の連中に拉致られてな。」
「そうだったんですか。それで冒険者になったんですか?」
「まぁ、色々あって冒険者になった訳だ。なぁ、お前を助けたヤツの顔はまだ思い出せないんか?」
「はい。本当は思い出したいんですけどね、なんか、こう、脈拍が速くなるといいますか…。」
「そりゃあ恋だな。ミソラ、今まで同じような事は感じたことあるか?」
「ない…、です。」
「そうか。この年で初恋か。まぁ、縁があるといいな。」
「はい。」
「すみません。ここはミソラ・グリークさんの事務所で合ってますか?」
「ああ、そうだが、どうかしたか?宮廷の人間だろ?」
「ミソラ・グリークさん、あなたには今すぐ国王陛下のところに出頭してもらいます。」
「え?どういうことですか?」
「詳しい内容は、国王陛下から直々にご説明なさるそうです。」
「そ、そうですか。」
「ここが…、国王のお城ですか?」
「もしかしてですが、宮廷は初めてですか?」
「はい。そもそもあまりこっちの方に来る機会もあまりなかったので。」
「なら、ぜひ王都の魅力を味わってください。」
私の家は郊外にあって、ここは王都。市場以外の雰囲気は私の町とまるで別で、とても華やかだ。でも、なんで国王が私を…?まさか、国王まで私の命を…。いやいや、それだけは考えられない。とすると、…他に心当たりはない
か。
「来客のお通りだ!」
「ど、どうも。初めまして、国王様。ご存じかもしれませんが、私はミソラ・グリークです。ところで、私を召喚なさったご用件は如何なものでしょうか?」
「先日、郊外の決闘場の騒ぎでお主を助けた青年を覚えているか?」
「えっと…、誰か男性に助けられた覚えはあるんですけど、顔が思い出せなくて…。実は、この場で言う事ではないかも知れませんが、私、その男性に恋をしてしまったみたいで…。」
「聞いたか、我が息子よ。お前の望んだ以上の結果だったようだな。」
「え?ちょ、ちょっとすいません。それどういう意味ですか⁉」
「その…、お主を助けた男は我の四男でな。ほら、隠れてないで顔を合わせたらどうだ?」
「よ、よう。お前にとっちゃ初めましてだろうが、お前は俺の心を奪った。責任取れよ…。」
「あっ…。お、思い出しました、全部!あなたは、決闘場で私を助けてくれた人…。」
「実はな、こやつは郊外の決闘場がよく人同士のいざこざの解決に使われるのを見に行っていてな。しかし、今までも未知数と行っているが、今回のように怪我人の治療をしたり、悪党を断罪したこともない。だから理由を聞くと、お主に惚れたからと申すのだ。だからお主はここに召喚された訳だ。こやつは、国政に一切関わらず、宮廷騎士団団長としての人生を歩んできた。だから、我はこやつを平民であるうお主と結婚させてもよい、と考えたわけだ。」
「おい親父。二度とアイツを平民なんて呼ぶな。特に、俺とアイツの結婚を認めているならな。」
「あの、ゼパルさんでしたっけ?その…、恥ずかしながら申し上げさせてもらいます。私との結婚を考えてくださっているのであれば、私のことを名前で呼んで頂けませんか?さっきも聞いたでしょうが、私はあなたのことが好きなんです。」
「お、親父の前で恥ずかしくなるようなことを言うな、み、ミソラ。」
「名前で呼んで頂き嬉しいです。旦那様。」
「まっ、まだ入籍すらしてないのにその呼び方はやめろ!」
「フフフ。ミソラ嬢よ、お主のおかげでなかなか見られないゼパルの一面を多く見られることができた。これからも末永くゼパルとともに歩んでくれ。歓迎するよ。」
「こちらこそよろしくお願いします、義父様。」
「か、勝手に話進めんなよ、親父もミソラも!」
「旦那様、さっき、私に好きになった責任を取れ、と仰いましたね?もちろん、全力で責任を取らせて頂きます。これも私の綴った物語ですから。」
「わ、分かったから旦那様呼びはやめろ!」
「じゃあ、ゼパル様でよろしいですか?」
「あぁ、もうそれでいい!」
「それでは、結婚後はどう呼べばいいですか?結婚が前提なんですよね?」
「そ、そんなこと今考える話じゃねぇだろ。とりあえず、あとで話がある。城の裏まで来い。」
「はい、ゼパル様。ならば、国王様、もうそろそろよろしいでしょうか?」
「ああ、もう何も言うことはない。ゼパルよ、ミソラに付いて行って暮らすか、ミソラにこの城に住んでもらうか、どちらがいい?選べ。」
「お、俺は断然ミソラと2人暮らしの方がいいんだが…。」
「それならぜひ私と2人暮らしをしましょう。」
「では、我は末永くその関係が続くことを願う。」
確か城の裏に来い、って言ってたっけ?何だろう?校舎裏で告白ならぬ城の裏で告白?
「話って何?ゼパル様?」
「み、ミソラ。俺はお前が好きで助けたのは本当だ。でも、結婚したい理由は他にもある。」
「発育が人並みだから?」
「ち、違う!まず、この話をするに当たって、しとかなきゃいかん話が幾つかある。」
「例えば?」
「俺の名前の由来と、俺がどうして国政に参加せず宮廷騎士団団長になったのか、だ。」
「名前の由来?」
「ミソラ、あの時古代魔法で七十二柱を召喚していただろ?」
「それがどうかした?」
「知ってるだろうがゼパルってのは七十二柱の1柱で、『霊能ノ十六 ゼパル』で召喚できるんだが。…実は俺、生まれつき体が弱かったらしくて。強くて女にモテるように、ってゼパルと契約して憑依させたらしいんだ。」
「それであの強さになったの?」
「まあな。それで幼少期には既に当時の団長に勝てたし、悪魔と契約してるヤツがいるととにかく聖職者の連中が五月蠅いんだ。だから、俺は国政に関わらず、騎士団団長をやってるわけだ。」
「それで、私と結婚したいもう1つの理由は?」
「俺はずっとゼパルとの契約を断つ方法を探していた。でも、古代魔法を使えるミソラならきっと俺の憑依を解けると思って…」
「でも、そんなことをしたらゼパル様はどうなるの?体が弱くて憑依させられてるんだよね?契約を解いたらゼパル様が死んじゃう…。それだけは絶対だめ…。」
「…あ、あの決戦の時は強気だったくせに、か、可愛いところあんじゃん。」
「…そりゃあ私もゼパル様も年頃だよ?お互い惚れるところが少ないってわけでは、ね。」
「あと、ミソラが俺の事を好きになったのは、俺の中のゼパルの影響だ。」
「何で?」
「俺の中の悪魔ゼパルは、女の愛情を燃え上がらせ、その男女を結ばせるかわりに女性が不妊になる力を持っている。だから、俺とミソラが結ばれても子供はできない。これは知っておいてくれ。」
「でもゼパル様。それはゼパル様の綴った物語だから、私の綴った物語と混ざって内容は変えられるんじゃないかな?私も、ゼパル様が元に戻らない可能性に覚悟ができたら、その時は契約から解放してあげるね。」
「でも、俺はもう少し、いや、できれば余程のことがない限りミソラと幸せでいたい。だから、俺はまだこの2つの呪いにかかっていたい。」
「2つの?どうして2つ?」
「い、言えねぇよ!」
「ふふっ。ゼパル様、顔真っ赤だよ?」
「ん、んなもん…。ミソラ、俺に3つ目の呪いをかけてくれ。」
「3つ目の呪いって?」
「俺に、一生ミソラを愛し続ける運命の呪いをかけてくれ。」
「それって…?あっ、なるほどね。いいよ。じゃ、少しだけしゃがんで。」
「これくれいの高さでいいか?」
「いいよ。じゃあ、いくね。」
「陛下!陛下はおられますか⁉」
「どうした?要件を申せ。」
「城塞の裏で、2人の初接吻を確認しました。」
「そうか。ゼパルも大人になったな。2人ともあの強さなら、孫をつくって欲しかったなぁ。」
「陛下、ゼパル様は…。」
「分かっとる。分かっとるよ。それでも諦めきれんのだ。」
「ミソラ殿に賭けましょう。彼女なら、あの契約を解くことができるやもしれません。」
「そうだな。」
「あと、俺にミソラの仕事のことを教えて欲しい。」
「え?急にどうしたの?」
「俺もミソラみたいになってみたい。」
「この道は苦労するよ。それでも?」
「それでも、だ。」
「分かったよ。2人で夫婦作家を目指そう。」
なんか、想像よりも楽しいスローライフになりそうだな。
続く