もういいもういいもういい。水多すぎ!!


最近の子は花にただ水を多くあげればいいと思ってるんだから。


「早く大きくなってね!」


そんな笑顔で言われたらまあ許すしかないのが僕の甘いところ。


「今日はねー。テレビが楽しみすぎて学校どころじゃなかったんだよ!」


敦君の学校帰り、家に上がる前に一度朝顔である僕に水をくれる。その時に敦君が今日学校であった楽しかったことや嬉しかったこと、時には嫌なことも起きるけどとにかく僕に話してくれるのがとても嬉しい。


「でもね、ちゃんと問題答えられたんだよ!あとね、あとね、あ、そろそろ時間だ!バイバイ!」


今日は見たいテレビがあるのか、早々に家に入ってしまった。


僕と敦君の出会いはほんの少し前、敦君が学校の授業で朝顔を育てるため毎日水をくれて僕が生まれた。


まだ芽がでてまもない頃に僕は犬に襲われたがこの世界に対して楽しみもない僕はそのままいなくなろうとした。でも敦君はその時に泣きながら守ってくれた。だから僕は敦君を見守る義務がある。


敦君は夢中にテレビを見ている。そう、僕は運よくリビングが見える位置に咲いた。日々何も変わらぬ景色を見ているよりよっぽど楽しい。


敦君が帰ってきて話を聞く、そして敦君の様子を眺める。僕の一日はこうして終わる。
それではここから敦君の観察日記でも書いておこう。



蕾がでて1日目

 「あ!蕾が出来てきてる!偉いぞ偉いぞ朝顔!がんばれ~」


次の日の水やり時間にはいつもと違う僕の姿に気づいてくれた。実は昨日も蕾っぽくなったのだがテレビが気になって気づかなかったことは許そう。


「今日はね、算数の授業僕答えんの早かったんだ~」


今日はいいことがあったようでとても嬉しい。明日もいいことが起きますように。そんな風に願っている間に敦君はもうとっくのとうに家に帰ってゲームに夢中だ。難しいのをクリアしたのかとても大喜びしている。嬉しそうな顔を見れただけで僕はもう幸せだ。



2日目

 「今日はね、国語の問題が難しくてわからなかったんだ、、」
今日は落ち込んでいる日だ。


落ち込んでいるように見えてゲームを始めるとすっかり楽しそうにゲームをしている。子どもの悩みなんて好きなことやれば忘れるもんさ。


3日目

今日は雨だ。当然水やりにはこない。少し寂しい。

家の中の敦君は宿題を早めに終わらせてゲームをしている。この家は宿題を終わらせないとゲームをしちゃいけないというルールがある。



4日目

「最悪だ昨日の雨で体育なくなっちゃったんだよ、、」


子どもというのはやり体育が好きらしい。


「しかもね!体育の変わりに勉強になったんだよ?ありえないよね!」


敦君の場合体育が好きというより勉強が嫌いなのかもしれない。


少し怒りながらも代わりに宿題はなくなったらしくはじけたようにゲームをしている。


しばらく雨が続いた。世間でいう梅雨らしい。梅雨の間は水やりはなく、寂しかった。


14日目

「わあ!朝顔!見ないうちにあと少しでお花咲きそうじゃん!!がんばれーがんばれー!」


久々の敦君は見ない間に成長した僕を褒めてくれた。心なしか敦君も少し大きくなった気が。気のせいか。


「それでねー。来週はテストで頑張らないとなんだよ」


今日はいつも見ているテレビが始まるはずなのにいつもより多く話してくれた。


15日目

「今日は宿題多すぎだよ~!ゲームあと少しでクリアなのに!今日はもういいやゲームやっちゃう!!」


たまに悪くなる敦君。ちゃんと成長していて嬉しい。こんな考えするなんて僕は甘やかしすぎだろうか。


しかしそれが原因でお母さんに怒られてゲームを取り上げられていた。泣き叫ぶ敦君にお母さんは容赦しない。


16日目

「もうお母さんやだ!帰りたくない!なんだよちょっとくらいいいじゃんか!」


まだ喧嘩中のようだ。


それから17日目も18日目もまだ喧嘩は続いてた。
敦君とお母さんは一切口をきいていない様子。


19日目


「もうこの家嫌だ!!出ていく!!」


「勝手にしなさい!何を言ってもテストまでゲームは没収です!」


帰宅早々敦君が泣きながら母と喧嘩している。


お母さんも少しはゲームやらせてもいいんじゃないか、、、
だめだめ甘やかしてはダメだ。
何か僕に出来ることはないか。。。


そう。花に出来ることなんて何も無いのだ。でも少しでも喜んでくれるなら、、、


20日目

「お母さん!!!」


「どうしたのそんなに慌てて!」


「見て!!!」


「まあ綺麗なお花。」


「うん!僕が咲かせたの!」


「頑張ったわね。」


「うん!でも朝顔さんも頑張ってくれたよ!」


「そうね、敦はいい子だね。きちんと朝顔さんにもありがとうしようね。」


「うん!朝顔さんありがとう!」


僕が出来ること。それはお花を咲かせることくらいだ。少しでもそれで笑顔になってくれたならそれでいい。
お礼も言えて敦君は本当にいい子だ。


「朝顔さん頑張ったから次は敦が頑張る番ね!」


「うん!頑張る!」


こうしてこの日の敦君は勉強を一生懸命取り組んだ。


21日目

「おいみろ朝顔!100点だ!!」


「お母さんみて!100点!!」


今日はテストだったらしい。よほど言いたいのか僕に報告した後早々にお母さんの所へ駆け寄った。


「すごいじゃない!じゃあこれあげるね!」


「えぇ!?いいの??ありがとう!!!」


何やらゲームをもらったようで大喜びしている。よかったね。敦君。


それから22日から30日目まではずっとゲームの話を楽しそうにしてくれた。


31日目

「今日こそはクリアすんだ!朝顔!俺に力をくれ!!」


今日も一段と張り切っているようだ。毎日ゲームなので少し心配になってきてはいる。


「また今日もゲーム?お外にはいかなくていいの?」


「平気平気ー」


心配するお母さんをよそに敦君はゲームに集中している。


32日目

「くそー。あいつ強すぎる!今日こそは倒す!!」

そういって足早に家の中に入って行った。このスピード感は宿題をやらずにゲームをするパターンだ。
嫌な予感だ、、


「宿題はやったのー」

ゲームをやるスピードが速いことに気づいたお母さんが疑っている。


「やったよ」


「見せて」


「後で」


「今見せなさい!!」


「なんだようるさいなー後でやるよ」


「宿題終わってからゲームって約束したよね?没収です」


「は!?ふざけんなよ!!お母さんなんて嫌い!」


敦君は閉じこもっていった。
また喧嘩だ。前回と似たような喧嘩だ。どこの家庭もゲームをめぐって何回も喧嘩するものなんだろう。


33日目

「お母さんまじ意味わかんない。」


こんな愚痴をこぼしながら家に入ってお母さんとは話さずに部屋に閉じこもっているようだった。


それから3日ぐらいお母さんとは話していないようだ。


今回は敦くんが悪いけど一瞬お母さんと話したそうにした敦君を見てさすがに可哀そうになってきた。僕はまだまだ甘いな。


37日目

「僕、お母さんに謝ってゲームがしたいんだけど何がいいかな」


ついに我慢できなくなったか本音が聞けて嬉しい。理由はゲームでもいい!謝りたいって思ってくれればそれでいい!
僕は嬉しい。おし、僕も頑張るぞ!!何か出来る事はないだろうか。


38日目

「お!すご!!花がすっごい大きくなってる!!」


「これ、お母さんにあげようかな。お花取るのいたいかな。」


「朝顔さんごめん!でもありがとう!」


こうして敦君は僕の花をもっていきお母さんの元へ行った。


「まあこんな大きなお花くれるの?」


「うん。ルール破ってごめんなさい。ちゃんと宿題やります。」


「偉い偉い。じゃあゲーム返すね!」


「ありがとう!」


敦君はお母さんにきちんと謝れて仲直りしたようだ。よかったよかった。


楽しそうにゲームをやっている敦君を見てまたいつも通りの光景にほっとした。


39日目

「朝顔のおかげで謝れたよ!喜んでくれたしありがとう!」


この日から敦君はちゃんと宿題を終わらせてからゲームするようになった。

こうしてまた一歩成長していくんだね。


それからの日々は色々なお話をしてくれた。
体育の徒競走あと少しで1位だったお話。ゲームをクリアしたお話。


でも毎日敦君をみているから分かってしまう。敦君は少しずつ寂しそうにしているところ。


45日目


「友達がほしい」

敦君がぼそっと言った。その日からだった。敦君がだんだん元気がなくなっていくのは。


46日目


「そういえば敦。お友達呼んできてもいいのよ」


「あぁ。うん。」


「何よその返事」


「友達なんかいらないもん!」


そういって部屋に閉じこもってしまった。


「敦ったら」

お母さんも最近の敦君が元気ないのを気になっているようだった。


日に日に寂しさと怒りで荒れている敦君。



47日目

「遊びたいよ。皆と遊びたい。どうすればいいんだろう。」


最近の敦君は落ち込んでばかり。部屋でも寂しそうにしている。


これ以上僕に出来ることはあるのだろうか。もう僕に出来る事はなにもない。こんなに近くにいるのに。毎日一緒なのに。僕は何も出来ないのだろうか。


いや出来る。僕ならできる敦君の子だ。


48日目

「うあ!お母さん!すごいよ!!」


「まあ。素敵!こんなに咲いている朝顔なんて初めてだわ!」


「僕の朝顔はすごいんだぞ!」


「じゃあさ、お友達に見せたら?」


「それいいね!でも、うまく誘えるかな」


「大丈夫よ!皆に自信もって紹介できるわよ!」


「わかった!頑張る!」


僕にはこれしか出来る事はない。だから頑張って。敦君ならできる。


49日目

敦君の学校帰りだ。今日はいつもより大勢でやってきた。


「うおー本当だ!お前の朝顔すご!!」


「俺なんか花3個だけだぞ!5個ってすごすぎ!」


「俺の朝顔はすごいんだぞ!」


敦君がお友達を連れてやってきた。


「見せてくれてありがとうな~。」


「てか敦の家なんかゲームないの?」


「あるよ!スイッチとかプレステとか!」


「まじで!?やろうぜ!!」

「いいよ!」


こうして敦君はお友達と楽しそうに遊んだ。こんなに楽しそうな敦君は初めてだ。よかったね敦君。



50日目。

帰るやいなや一目散に友達と家に入った。

今日も敦君はお友達と遊んでいる。


「いらっしゃーい」

楽しそうにしている敦君にお母さんも一安心しているようだ。


51日目。

今日もお友達と、、


52日目

今日も、、

次の日も、その次の日もずっとずっと敦君はお友達と夢中でゲームしていた。


朝顔に水をやるのも忘れて。。



60日目。

僕はもう体力の限界だ。でもそれでいい。敦君が楽しそうにしているならそれでいい。この世界に楽しみなんてなかったけど敦君が楽しさを教えてくれた。敦君が楽しそうにしているのをみれて僕は幸せだった。やっぱ僕は敦君に甘いな。
敦君をもっと見ていたい。いつしかこう思ってしまった。だけど敦君はもう成長したんだ。僕がいなくても立派に育った。
今日敦君から卒業しよう。


育ててくれてありがとう。世話がやける親だったけど楽しかった。


楽しそうに笑っている敦君をみて朝顔は旅立った。





数日後。


「敦!そういえばあの朝顔どうなったの?」


「あ!!やべ!忘れてた!!」

敦は急いで朝顔の元へ駆け寄った。

朝顔の姿をみた敦はそのまま家へ帰って行った。


最終日。

「ただいまー」

「おかえりー」

「そういえばこんなの貰った。」

「すごいじゃない!絵日記コンテスト優秀賞じゃない!」

「まあねー。だからゲーム買って!」

「ばかな事いわないの!全く。ほうほう。それでそれで何て書いたのかしら。」

「ばか!読むな!」


『 朝顔   1年2組 浅見 敦

 僕の朝顔はとても大きくていっぱいあってすごいです。それは僕が毎日お水をあげてたからすごい朝顔になったんだと思います。毎日お水をかけていっぱい一緒にいるので朝顔は僕のことを分かってくれているような気がします。
勉強が嫌で宿題が大嫌いな時に花を咲かせてくれて僕も頑張ろうと思ったり、お母さんと喧嘩しちゃった時にとても大きなお花が咲いてプレゼントして仲直り出来たりしました。自慢できるくらいいっぱいお花が咲いた時にはクラスの人を初めて呼んでそこからお友達になりました。最後は少しお水あげるのを忘れてしまい枯らしてしまったので朝顔さんにごめんなさいって言いたいです。
このように僕は朝顔に助けてもらってばかりでした。だから朝顔から卒業して僕だけでも色んな問題に立ち向かえるようになりたいです。なので朝顔さん安心して見守っててください。今までありがとう。また話そうね。』