やがて最後の花火が空に散って、非日常の空間が終わった。

ざわざわとした人の気配が戻るにつれ、わたし達の間に流れる空気も戻っていく。

「......すごかったね」

こんな陳腐な感想でまとめてしまうのも憚られたけど、そんな言葉しか口から出てこなかった。

浅野も同じなのか、「うん」と小さく呟いて、「行こうか」と言った。

余韻に浸りながらも、帰路に向けて足を進める。
花火が終わってしまった喪失感と、浅野との時間が終わってしまう焦燥感が押し寄せていた。

何か話したい。
でも、何も言えない。

なんて事ない普段の談笑はどこか遠くへ消え去ってしまった様で、軽々しく口にする言葉が見つからない。

並んで歩く2人の距離感が、上手く掴めない。

屋台の並ぶ通りに近付けば近付く程、人の流れも増えていく。
皆同じ方に向かっているからか、来た時よりも人でごった返していた。

「......多いねぇ、人」
「うん、みんな帰路についてるからね」
「早く抜けたいね」

人の流れる方向は同じなので、逸れるわけにもいかない。
高速道路の渋滞と同じだな、なんて思いながらゆっくり足を進めていたら、隣を急いでいた人とぶつかってしまった。

「あ、わりぃ」
「ごっ、めんなさい」

突然のことでバランスを崩し、浅野の方に倒れかかる。
幸いこけることはなかったけれど、浅野の腕にしがみつく格好になってしまった。

咄嗟の出来事でも、心臓が跳ねる。

「あっ、ご、ごめん」
「っと。大丈夫?」
「うん、ごめん、ぶつかっちゃって」

慌てて離れたけれど、上手く流れにのれずに、もたついてしまう。

ほんの少し空いた、浅野との距離。
近くて遠い、今のわたし達みたいだ。

そのまま歩みを進めようとした時、すっと手が引かれた。

乗れなかった人の流れに、自然に溶け込む。

少し前を行く浅野が、わたしの手を握っていた。

ざわめきが遠くなり、神経が全て手のひらに集中する。

浅野は何も言わずに、柔らかくわたしの手を包む。

自分の心臓の高鳴りすら気付かないまま、ただ握られた2人の手を見つめていた。

何も言わずに手を繋いだまま、ゆっくりと人の流れに沿う様に歩く。

......この時が永遠に続けばいいのに。

何も考えず、言葉も交わさず、この温もりだけが永遠であればいい。

全てを隠してくれる様な人混みが、今はとても心地よかった。

斜め前を行く浅野の表情は、何も見えない。
浅野が手を取った意味も、今はまだ、考えたくない。


火薬の残り香が、夏の夜に溶けて消えていった。