そんな風に何も考えずにいたら、テストの結果は散々で、あろうことか補習組に列席してしまった。
おかげでテスト後の放課後も丸潰れで、蓋を開けたらあっという間に夏休み目前。

いつの間にか外は蝉の声が響く季節になっていた。

「おっわったー!ようやく補習終わり!解放ー!」

わたしと同じく補習組になっていた玲奈は、んんっと大きく伸びをして叫ぶ。
補習から解放され、来週から夏休みだ。

「しかし珍しかったね、ひなが補習組になるなんて」

そこまで頭がいいわけでもないけど、ここまでボロボロのテストは初めてだった。
駄々下りの自己肯定感が更に下がる。

「いや、全然集中できなくてさー」

ははっと苦笑するわたしに、玲奈は訳知り顔でコソッと呟く。

「わかってる、浅野君関連でしょ」
「え!?」

浅野のことは、誰にも話していなかった。
だからこそ、ここで名前が出てくることに驚きを隠せない。

「なんで......」
「何年友達やってると思ってるのー。最近の放課後の付き合いの悪さから、検討はつけてましたよ」

ひひっと笑い、「よし、スタバでじっくり聞こうじゃないか」と肩を組んでわたしを教室から連れ出す玲奈。
そのまま拉致されるかの様に、いつものスタバへと流れ込んだ。



「......なるほど〜、いやーまさかそこまで話が進展してるとはなぁ」

フラペチーノを飲みながらニヤニヤと話を聞く玲奈の前で、わたしは気まずそうにコーヒーを口にする。

「ひながねぇ、浅野君のことをねぇ、ふぅ〜ん」
「ねぇ、からかってるでしょ」
「からかってないよぉ、面白がってるだけ」

「同じだよ!」と怒るわたしに、ごめんごめんと笑いながら玲奈は続けた。

「浅野君、いいと思うけどなー。隠れイケメンじゃん。目立たないけど実はイケメン」
「......そういうんじゃないって」
「いやそれは冗談でさ。でもほんと、ひながそこまで真剣になれたってことは凄いことだと思うよ」

玲奈とは中学校の頃からの友達で、お互いの恋愛事情もよくよく熟知していた。

「ひな、今までは告白されて付き合うパターンだったじゃん?ひなから好きになったって話聞いたことないし。なんだろ、友達と恋人との境界線がずっと曖昧な子だなって思ってた」

だからこそ、玲奈の分析は核心をついている。

「でも浅野君のことは、ひなから興味持って、ひなから関係性を広げてるじゃん。それって凄いことだよ。初めてひなから好きになった人なんじゃない?」
「そう......かもしれない」
「初めてだからさ、詰め方もよくわかんなかったんだよ。初デートでいきなり付き合おうは急ぎすぎた感あるしね」
「......ごもっともで」
「ということで、まずはもっと距離を縮めること!友達としてじゃなく、男女の距離!よし、花火大会誘おう!」
「え!?」

テキパキとスマホのスケジュール画面を開きながら、「ほら、7月26日に櫻川の花火大会あるじゃん!あれに誘うんだ!今すぐ!」と花火大会のチラシを出した。

「今!?」
「電話が無理ならLINE送って!こういうのは勢いが大事なんだよ!」
「勢いで告ってふられてるんですけどわたし」
「それとこれとは別!はい、送ってー」

花火大会に誘うなんて、完全にデートだ。
しかも振られた相手を誘うなんて、なかなかな猛者じゃないか。

でも確かに、今送らないと多分ずっと誘えない。
そして夏休みが終わったら、空白期間が長すぎて更に気まずくなること必須だ。

「......なんて送ろう」
「とりあえずこの前のことは一旦置いといて、一緒に行かない?ってかるーく誘ってみな!大事なのは、軽く誘うこと!」
「花火大会に誘うってだけで結構重い気が......」
「好きアピールしながらも軽く誘うってのが大事なのよ。男女で行く花火大会、いい雰囲気にならない方がおかしい!」

半分以上面白がってる玲奈の勢いに乗せられて、逡巡しながらもどうにかLINEを送ってみた。
トントンと文字を打つ指先が震える。
送信画面は躊躇ったけど、玲奈が勢いよく押してしまった。

「あぁ!送っちゃったじゃん!」
「よし、返事を待とう!」
「無理無理もう見ないもう家までスマホ開かない!」
「えー!気になるんですけど!」

若干後悔しながらも、もう送ってしまったからにはどうしようもできず、わたしは思いっきりスマホをカバンに突っ込んで残りのコーヒーを飲み干した。

一歩進む怖さもある。けど、夏休みの間、一度も浅野と会えないのも辛い。

2度目の勢い。吉と出るか、凶と出るか。