ナイトアクアリウム、夜の水族館。
ポスターを見る限りロマンチックなイメージを思い浮かべていたが、入った先の水族館は、思った以上にいつも通りで少し拍子抜けだった。

無理もない。水族館自体が比較的暗い空間。朝も夜もあまり関係がなさそうだ。

あの日来た水族館と大差ないところに、元彼ではなく浅野と来ていることに今更ながら不思議な感覚を覚える。
そして間違いなくあの日より、自分の心がワクワクしていることにも。

わたし達は普段とあまり表情の変わらない水族館の中を、ゆっくりと歩みを進めた。

「でも、昼間の魚とはまたちょっと違うんだよ。活発に動き回ってる種類も変わってたりさ。あ、ほら、あそこ見てみて、寝てる魚もいる」
「魚って寝るの?」
「寝るよ。目開けたままじっとしてるやつ、ほら、あそこ」

嬉々として説明してくれる浅野の指先を一生懸命辿るものの、どれもこれも瞬きもせずに泳いでいる魚達なので、違いがさっぱりわからない。

「......わぁ、ほんとだ、あれかな!」
「春日井、絶対見つけられてないよね」
「えへ、ごめんね」
「ほら、ここ立ってみて」

浅野はぐいっとわたしの腕を引き寄せて、自分の前に立たせた。
思った以上に至近距離で、一瞬時が止まる。
背中に浅野の空気を感じて、心臓が跳ねた。

「あそこ、見える?黄色い魚いるでしょ。その斜め下見てみて」

高い背をかがめて、わたしの視線と合わせてくれようとする浅野。
顔の横に浅野の顔。頬が火照るのがわかる。

「......あ、いた。ほんとに見つけた」
「見えた?あいつ、寝てるよ。可愛いなぁ」

必死に冷静さを保ちながら浅野の指差す魚をなんとか見つける。
この状況で可愛いなぁ、なんてセリフ、反則にも程がある。
......わたしじゃなくて魚に向けられたセリフだけど。

何こんなに、ドキドキしてるの、わたし。

「あ、あっち見てみようよ、大水槽!」

これ以上この距離感を保てる自信がなく、わたしは咄嗟に浅野の腕を掴んで大水槽の前へと誘った。
距離は離れたけれど、掴んでしまった腕の行方をどうすることもできず、そのまま移動する形になってしまう。

やばい、手のひら、熱くないかな。

離すに離せない指先から、どうか心臓の音が伝わりません様に。
自分の想像もしていなかった変化に戸惑いながら、冷静なフリをして進むしかなかった。