「なぁ、花梨。へんな夢を見ることってあるか? 俺さぁ、完璧なドイツ語を喋っていたらしいぜ。当直していた帰国子女の女医さんがびっくりしていたよ。女医さん、子供の頃、オーストリアにいたんだって」
花梨はドキッとして聞き返していた。まさか、輝も前世を思い出してしまったのだろうか。
「ドイツ語で何て言っていたの?」
聞き込む花梨の心臓がドクンと脈打っていた。輝は、遠い昔の記憶を手繰り寄せるように呟いていく。
「ナチスが暗い影を落としている。この世界は病んでいる。俺はここで死ぬ。いずれ、新しい時代が来る。君は精一杯生きろだってさ。これって、映画の台詞なのかな……。へんな寝言だよな」
「きっと映画の台詞よ……」
「ふうん。何の映画なのかなぁ。リーザって女の子の出てくる映画、検索したけど、見付からなかったなぁ」
「……そっか、そのうち思い出すかもしれないね」
花梨は、前世について彼に話すつもりはない。それに、話したところで彼には分からないだろう。
「本当に、一時はどうなるかと思ったぜ。あと少しズレてたらやばかった」
「死ななくて本当に良かった……。元気になって良かった。あたし、出来る限り近くにいるね」
「その言葉、忘れるなよ」
自分達以外に誰もいない車内には太陽光が差し込んでいる。
輝は、花梨の手を握ると、頭を下げるようにして揺れるバスの中で輝が顔を近づけてきた。優しく唇を押し寄せている。口付けながらも、そっと花梨の頬を撫でている。
花梨は、泣きそうな顔で微笑みながら、輝の頬に触れている。二人は、ずっと見詰め合っていた。
花梨に注がれている視線は夏の日差しよりもずっと熱いから、たちまちバターのように気持ちが解けていく。強く手を繋いだまま、恋人達は見詰め合ったまま安心したように微笑んでいく。
彼は、長い夢から覚めたような少年のように無垢な表情を浮かべている。
「今更、こんなことを言うのは照れるけどさ、俺は、ずっと前から、花梨のこと知っていたような気がしていたんだよ。街角で、初めて見かけた時から猛烈に好きだったんだ」
「うん、あたしもそうだよ」
「嘘だろう。最初、俺から逃げてたじゃないか?」
「色々と迷いがあったの。でもね、もう解決したよ。正直に言うね、誰よりも輝くんのことが好きだよ」
「俺もそうだ。ああーっ、早く就職したいな。そしたら、花梨と結婚できるのにな。一緒に暮らせたらいいだろうな」
「そうだね……」
人生を精一杯生きなくちゃいけない。繋いだこの手を二度と離さない。今度こそ、あたしは、この先もずっと一緒に人生を歩んでみせる。
(あたし、あなたのことを愛したことを後悔したことなんてないのよ。あなたは、あたしの唯一の恋人なんたもの)
花梨はドキッとして聞き返していた。まさか、輝も前世を思い出してしまったのだろうか。
「ドイツ語で何て言っていたの?」
聞き込む花梨の心臓がドクンと脈打っていた。輝は、遠い昔の記憶を手繰り寄せるように呟いていく。
「ナチスが暗い影を落としている。この世界は病んでいる。俺はここで死ぬ。いずれ、新しい時代が来る。君は精一杯生きろだってさ。これって、映画の台詞なのかな……。へんな寝言だよな」
「きっと映画の台詞よ……」
「ふうん。何の映画なのかなぁ。リーザって女の子の出てくる映画、検索したけど、見付からなかったなぁ」
「……そっか、そのうち思い出すかもしれないね」
花梨は、前世について彼に話すつもりはない。それに、話したところで彼には分からないだろう。
「本当に、一時はどうなるかと思ったぜ。あと少しズレてたらやばかった」
「死ななくて本当に良かった……。元気になって良かった。あたし、出来る限り近くにいるね」
「その言葉、忘れるなよ」
自分達以外に誰もいない車内には太陽光が差し込んでいる。
輝は、花梨の手を握ると、頭を下げるようにして揺れるバスの中で輝が顔を近づけてきた。優しく唇を押し寄せている。口付けながらも、そっと花梨の頬を撫でている。
花梨は、泣きそうな顔で微笑みながら、輝の頬に触れている。二人は、ずっと見詰め合っていた。
花梨に注がれている視線は夏の日差しよりもずっと熱いから、たちまちバターのように気持ちが解けていく。強く手を繋いだまま、恋人達は見詰め合ったまま安心したように微笑んでいく。
彼は、長い夢から覚めたような少年のように無垢な表情を浮かべている。
「今更、こんなことを言うのは照れるけどさ、俺は、ずっと前から、花梨のこと知っていたような気がしていたんだよ。街角で、初めて見かけた時から猛烈に好きだったんだ」
「うん、あたしもそうだよ」
「嘘だろう。最初、俺から逃げてたじゃないか?」
「色々と迷いがあったの。でもね、もう解決したよ。正直に言うね、誰よりも輝くんのことが好きだよ」
「俺もそうだ。ああーっ、早く就職したいな。そしたら、花梨と結婚できるのにな。一緒に暮らせたらいいだろうな」
「そうだね……」
人生を精一杯生きなくちゃいけない。繋いだこの手を二度と離さない。今度こそ、あたしは、この先もずっと一緒に人生を歩んでみせる。
(あたし、あなたのことを愛したことを後悔したことなんてないのよ。あなたは、あたしの唯一の恋人なんたもの)