それから数日後の朝。
 常連兄妹が『藍』に来店すると、私は早速、新モーニングを出すことにした。

「あれ? モーニング、前に戻ったなあ」

 常連客(兄)がそう言って、テーブルの上に乗った真っ白なお皿を眺める。
 そうなのだ。
 新モーニングはスクランブルエッグ、カリカリベーコン、ポテトサラダで祖父母が経営していた頃にメニューを戻した。

「結局、戻しちゃったのねー。梢ちゃんの和なモーニングも結構、好きだったのに」

 常連客(妹)がそう言ってがっかりしたような顔をしたけれど私は知っている。
 彼女が煮物をほとんど残していたことを……。

「モーニングはメニューを戻したわけではないんですよ。変わったところがあります」

 私はそう言うと、お皿に乗せたクロワッサンとロールパンを二人のテーブルに置く。

「あ、トーストじゃねえんだな」

 常連客(兄)はそう言うと、ロールパンにかぶりつく。
 常連客(妹)もクロワッサンを一口サイズにちぎって、それを口に入れる。
 途端に、店内を静寂が支配する。

 えっ?! おいしくない?! 
 なんで黙ったの?!

 私が不安な気持ちで二人を見ていると、常連客(妹)が笑顔をほころばせる。

「おいしーい! バターたっぷりでサクサクのクロワッサン、大好きなの!」

「こりゃあたまげた! こんなうまいパン、梢ちゃん作れるのか!」

 常連客(兄)が興奮した様子で尋ねてきた。

「あ、これは『たいよう』のパンなんです。モーニングで出したいって言ったら快く引き受けてくれました」

 私がそう説明すると、二人は納得したように頷く。

 料理で勝負するには私は経験値が足りなさ過ぎる。
 それならば、パンを本格的なものにしようと思ったのだ。
『たいよう』からパンを直接買って出しているだけなのだけどね。
 でも、店長も協力的で値段は下げてくれたし、おまけに焼きたてを提供してくれることになったのだ。