次の日は早速、斜め向かいの『ペール』のモーニングセットを食べてみた。
けれどすぐに後悔した。
だって、美味しいんだもん。
オムレツなんかふわふわで中がとろっとろだし、ウィンナーは本格的。モーニングもそうだけれど、コーヒーも本格的で美味しい。
非の打ちどころがないのだ。
さすがレストランのモーニングだ。
ここがモーニングを始めた頃に食べ来たけれど、その時よりもレベルアップしている。
わざわざサングラスとマスクで変装してまでここに来たのに、レベルの高さを見せつけられて自信をなくしただけじゃないの。
でもおいしい。くやしい。
悔しさで泣きそうになりつつも、周囲を見回してみる。
内装は白と温かみのある木目で統一されて全体的に明るくておまけにオシャレ。
あと天井高い。電気代、いくらなんだろう。
そんなオシャレで天井の高い店内には、老若男女さまざまな客が楽しそうにモーニングを食べている。
うちの店の倍……いや三倍は客がいるなあ。
私がため息をついて、帰ろうと席を立とうとした時。
「おい。梢」
銀太がそう言ってこちらにやってきた。
ばれてた?! 完璧な変装だったのに! よーし、裏声ですっとぼけよう。
「ど、どちらさまでしょう?」
「いろいろとツッコミどころは満載だけど、そんなことよりも大変なんだよ」
「……なによ。満席で大変とでも言うの? はいはい。今どきますよ。きれいに完食もしたしね。ごちそうさま」
「変なところで律儀だな――じゃなくて、ファミレスがあった空き地あるだろ? 商店街抜けてすぐの交差点のそばの」
「ああ、うん。ずっと売地だったところね」
「あそこ、最近、工事始めたんだよ。それでさ、聞いたところによれば、コーヒーチェーン店らしい」
「へえ。あの土地、売れたんだ……って、コーヒーチェーン店?!」
私が驚いて銀太の顔を見ると、彼は神妙な面持ちで頷く。
「コーヒーチェーン店って、スタボかなあ。それともトトールかなあ。どっちでもいいからこの辺にできてくれればいいなあと思ってたんだ」
私の言葉に、銀太がため息をついてからこう言う。
「そのコーヒーチェーン店ができたら客がそっちに流れるぞ」
「あ! そっか! それはマズイ」
「うちはともかく、お前の店は客が0になりかねない」
銀太が真面目な顔で言ったので、私は伝票で奴のおでこをぺしっと叩いておいた。
本当のことだけど失礼だ。